2014/10/14

F.P.シューベルト/交響曲第8番ハ長調 D944《大交響曲》

"The Great"

譜面にさりげなく記されたその単語に、ただならぬ気配を既に漂わせています。

もっとも真相は同じくハ長調の交響曲が第6番にもあるため、「大きな方のハ長調」という程度で、「偉大なる交響曲」とかそんなロマンティックな意味はないようです。

モーツァルトのト短調は第25番と第40番があります(第25番は映画「アマデウス」の冒頭に用いられた曲ですね)。
こちらは第25番を「小ト短調」、第40番を「大ト短調」と俗称で呼ぶのと同じようなものでしょうか。

しかしながら我々アマチュア演奏家に取って「グレート」と言えばこのシューベルトの第8交響曲を指すことは間違いなく、そこには「大きなだけ」ではなく少なからぬ畏怖の念が込められています。

まずはかのロベルト・シューマンが「天国的な長さ」と評した曲の長さです。
50分超という時間はベートーヴェンの第9(74分)やマーラーやブルックナーの交響曲には及びません。
しかしながら1155小節もの終楽章はほとんど息つく間もなく駆け抜けることになる為、肉体的・精神的なタフさはこの「グレート」により求められます(マーラーやブルックナーは1時間を越えるのですが途中ながーい休みがあったりますので)。

体力だけではなく、演奏上もなかなか難しい曲です。
これまた終楽章はおそらく歴史上数多くの弦楽器奏者を泣かせたであろうパッセージがでてきます。
難しい箇所は1回だけであればミスをしても精神的ダメージは軽く済むのですが、シューベルトは親切にも3回繰り返して書いてくれています。
最初にミスをしても立ち直る時間もなく2回目3回目と来ると・・・なかなか追い込まれますね。


さて、通常はフル・オーケストラで演奏されるこの「グレート」ですが、第30回のブラームスの第4番に続きあえて室内オーケストラで取り組んでみました。
プロオーケストラでもヨーロッパ室内管弦楽団をはじめスウェーデン室内管弦楽団、蜜室内管弦楽団などでも取り上げられていることと、「シューベルティアーデ」なる言葉があるように室内楽や歌曲にシューベルトの原点を求め、室内オーケストラによる「グレート」の取り組みも面白いのではないかと思います。


シューベルトはかのサリエリに師事して作曲を学び、先達であるベートーヴェンをとても尊敬していました(「グレート」の終楽章中間部には「歓喜の歌」の旋律が用いられています)。
サリエリが教材にしたハイドンやモーツァルト、それから尊敬するベートーヴェンともまったく違う、シューベルトらしい曲を残していますが、当時のシューベルトはやはり「歌曲の作曲家」の印象が強かったのか生前にはほとんど交響曲が演奏されることはなかったようです。
この「グレート」に至っては楽譜を献じられたウィーン楽友協会が演奏することもなく、10年以上経ってシューマンが文字通り「発掘」し、メンデルスゾーンが初演することがなかったら・・・人類にとってどれだけ大きな損失であったことでしょうか。

シューマンやメンデルスゾーンの功績はもちろん、10年以上もシューベルトの遺品を守った兄・フェルディナントに後世の人間はどれほどの感謝をするべきでしょうか!


注)
最近利用されるベーレンライター版には"The Great"の表記はなかったりします。
これは最初に出版した際に出版社が勝手に付けたから、とのことですが、それにしてもよいタイトルをつけてくれたものです。