そのような時期に作曲されたのがこの『英雄』である。
『英雄』ナポレオンの為に献呈しようと作曲したが、皇帝即位の報に接し、表紙を破り捨てたというエピソードは有名である。真偽を確かめる術はないが、当時ポーランドを初め欧州各国ではナポレオンは庶民の味方、英雄であった事は間違いない。
結局のところ、ベートーヴェンは「英雄交響曲、ある偉大な英雄の思い出捧ぐ」と書き添えた。
今日、ベートーヴェンの奇数交響曲(1, 3, 5, 7, 9)は大編成のオーケストラをよく鳴らし、偶数交響曲(2, 4, 6, 8)は小編成に適しているとの話をよく耳にするが、ベートーヴェンが初演を行なった時、弦楽器は1stヴァイオリンのみ4人で他のパートは2人しかいない編成であった。当時としてはむしろ一般的な編成であったといえる。
演奏会では室内管弦楽団の特色を生かし、初演に近い編成での演奏を楽しんで頂ければ幸いである。
第1楽章 Allegro con brio ソナタ形式
決然さを感じさせる2度の強奏からチェロによる第1主題が提示され、様々な動機が描かれる。長大な展開部では第1主題が変化しながら発展を続けていく。再現部では改めて第1主題を再現し、堂々たるコーダによって力強く終わりを迎える。
第2楽章 Marcia funebre: Adagio assai ABACAのロンド形式
葬送行進曲ではあるが、死を悼むというよりは過去との決別を思わせる。1stヴァイオリンとオーボエで主題が提示(A)された後、ハ長調の伸び伸びとした中間部(B)に移る。
ベートーヴェンは後の交響曲第5番『運命』や交響曲第9番『合唱付き』でもハ長調で光が差し込む情景を描いている。今回演奏する『プロメテウスの創造物』も同じハ長調であるが、ハイドンの『天地創造』をこれらの作曲で意識したのではないだろうか。
ベートーヴェンは後の交響曲第5番『運命』や交響曲第9番『合唱付き』でもハ長調で光が差し込む情景を描いている。今回演奏する『プロメテウスの創造物』も同じハ長調であるが、ハイドンの『天地創造』をこれらの作曲で意識したのではないだろうか。
第3楽章 Scherzo: Allegro vivace 複合三部形式
可変拍子を思わせる部分を取り入れたスケルツォ楽章。中間部はホルン3重奏で勇壮な音楽を奏でる。
第4楽章 Finale: Allegro molto 変奏曲形式
今日ではブラームスの交響曲第4番、終楽章のように目にする機会も多いが、当時は斬新で異例の形式であった。『プロメテウスの創造物』終曲のテーマが流用され、様々な展開を迎える。フガートやフルートのソロを取り入れるなど、決して単調な展開ではない。トルコ行進曲を思わせる変奏などを挟んだのち、テンポを落として過去を回想しているかのような旋律が奏でられる。盛り上がりを迎えたのち、弦楽器と木管楽器によるモーツァルトを想起させる静かな会話が行われる。
フィナーレでは冒頭部分が再現されたのち、『英雄』の凱旋で熱狂的に終わりを迎える。