2020/01/08

J.ハイドン/弦楽四重奏曲第76番ニ短調 op.76-2《五度》

「交響曲の父」と呼ばれるフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)。
本人の作といわれるもので108曲、偽作も含めると120曲もの交響曲を作曲している。
ロマン派以降の作曲家が生涯に数曲しか残していないことと比較すると、時代の違いはあるにせよ膨大な数であり、全曲を演奏した奏者はなかなかいない。

それだけではなく弦楽四重奏曲も80曲以上残している。
「ひばり」「騎士」「皇帝」などタイトル付きの作品は特に親しまれ、この「五度」も演奏機会の多い人気曲だ。
「皇帝」「日の出」などと一緒にエルデーディ伯爵の依頼で作曲されたことでエルデーディ四重奏曲などと呼ばれ、60歳を越えてなお意欲的なハイドンの名作たちだ。
作曲されたのは1797年、モーツァルトは6年前(1791年)に世を去り、ベートーヴェンはまだ27歳、初期の作品群の時代で、2年後の1799年になりようやく弦楽四重奏第1番、交響曲第1番が世にあらわれるという時だ。

曲名の由来はその通り「五度」の音型で主題がベートーヴェンのごとく執拗に繰り返されることによる。

五度の音楽は音楽的にはとても古い時代の手法で、多くの作曲家は多用することを好まないような話も聞く(和声学的には異端らしい?)。
後に三度・六度の和音が流行し、対位法へと発展していく時代の中で再び五度の音楽を取り入れたのはベートーヴェンだという話もあるようだ。

有名なのはなんといっても「第9」の冒頭。
ホルン、バイオリン、チェロにより響く五度の和音による最後の交響曲で新しい世界を切り開いた・・・わけではなくはるか昔の音楽を復活させたものが一周回って新しく聞こえているわけだ。

また「五度」の1楽章ではときおりオリエンタルな雰囲気を感じるときがある。
日本人の感覚だからなのかとも思ったが、調べてみればバルトークやヤナーチェクも用いているのでそれほど外れた感想ではないだろう。

そんなわけで「なぜ五度の音楽が新鮮に聞こえるのか」を考えながら聴いてみるのも面白い曲だろう。


この曲の演奏会
室内楽演奏会 vol13