2019/07/02

A.ドヴォルジャーク / ピアノ四重奏曲第1番 ニ長調 Op. 23

スメタナ、フィビヒと並んで、ボヘミア楽派を創始、確立した大作曲家であるドヴォルジャーク(1841年9月8日 - 1904年5月1日)。交響曲の分野でも、ブラームス、ブルックナー、チャイコフスキーにつぐ19世紀の後半では有数の作曲家の一人であったが、室内楽に関してはブラームスにつぐ当時、第2の大作曲家であったといえる。ドヴォルジャークは室内楽を最初の交響曲よりも4年も前から書き始め(1861年)、9つの交響曲を書き終えた後もなお2年半あまりの間(1895年)、室内楽の作曲を続けた。その間に書かれた室内楽曲は、完成された形で現存する多楽章の作品だけでも32曲にのぼる。

その中から今回はピアノ四重奏曲第1番をお届けする。この曲は1875年に作曲されたものであるが、これまでのシューベルト、ワーグナー、リスト、スメタナなどの影響を受けた作風から、ドヴォルジャーク独自の良さが発揮されるようになった時期である。この頃ドヴォルジャークはオーストリア政府の芸術家のための国家奨学金の受賞者に選ばれており、不安定な生活から脱却できただけではなく、審査員のブラームスから才能を見出されその後の人生に大きく影響を与えた転機となる時期でもあった。


第一楽章 Allegro moderato
冒頭からメロディーメーカーとして面目躍如な導入は美しく、しかしどこか寂しさ、愁いを含む。全曲を通して劇的な盛り上がりを聴かせるのではなく、牧歌的な美しさ、望郷の思い、そしてふと思い出す旧友とのエピソードが感じられる。

第二楽章 Andantino, con Variazoni
変奏曲形式となっており、5つのバリエーションとコーダから成り立っている。民族音楽的なテーマが、それぞれのバリエーションで美しくかつ異なる表情を体験させてくれる。
第三楽章 Finale
優雅な美しいメロディと活気ある急速なテンポを伴う曲調が交互に現れる、気分の変化の表現を特色とするスラブ民謡の形式を用いた楽章となっている。終盤は弦パートとピアノが異なる拍子で音楽が進み(2/4と6/8、その後入れ替わり6/8と2/4になる)、巧みな遊び心のあるエンディングとなっている。