シューベルト(31歳)、モーツァルト(35歳)、ショパン(39歳)、ビゼー(36歳)、ガーシュイン(38歳)とあげればきりがありませんが、メンデルスゾーンもそうした早世の作曲家の一人で、38歳で亡くなっています。
裕福な家庭に生まれたことでベートーヴェンのようにお金に困ることはなく、小さい時から数々の語学、数学、乗馬、絵画と一日中勉強に励み、音楽でも当然家庭教師がつき、バイオリンにピアノに作曲まで手ほどきをうけていました。
”パパパパーン♪"と鳴り響けば誰もが思い浮かべる「結婚行進曲」を含む「真夏の夜の夢」はわずか17歳で作曲し、20歳の時にはバッハの「マタイ受難曲」を(ほぼ)100年ぶりに再演したりと華々しい活躍をします。
そんなメンデルスゾーンの代表作の一つがこのヴァイオリン協奏曲。
”メンコン”とも呼ばれるこの曲はベートーヴェン、ブラームスと並ぶヴァイオリン協奏曲の頂点に立つ曲であり、メンデルスゾーンとしては晩年となる35歳の時に作曲されています。
若い頃に「弦楽のための交響曲」「弦楽八重奏曲」など弦楽器を使った作品を残しているのでもっと若い頃の作品と思っていましたが、意外にも5つの交響曲を書き終え、管弦楽曲としてはほぼ最後に近い作品だったりします。
短い前奏の後に憂いをおびたやや悲しげなメロディーからはじまるこの協奏曲は、1838年から作曲が始められ1844年に完成しています。彼の短い生涯を考えればなんと長い時間を費やした作品でしょうか。
曲が要求しているのは技巧の完全さを超えた深い解釈と崇高な簡素さを備えた様式であるのに、平凡なヴァイオリニストが演奏すると、この協奏曲は名人芸の見せ場になる
ーーレミ・ジャコブ「メンデルスゾーン」(作品社,2014)
この言葉はなんとも作品の本質を突いているのではないでしょうか。
パガニーニの作品のようなソリストの超絶技巧をアピールする曲ではなく、ソロとオーケストラが1つの楽器として、さらには1楽章から3楽章までが通して演奏される作品としてのつながり、そして一体感。天才メンデルスゾーンの最高傑作としてふさわしい作品ではないでしょうか。
メンデルスゾーンの死後わずか3年後、かのリヒャルト・ワーグナーが論文「音楽におけるユダヤ性」でその音楽性を否定し、またさらに後にはナチス・ドイツはメンデルスゾーンを含むユダヤ人作曲家の作品の公演を禁止し、ゲヴァントハウスのメンデルスゾーンの記念像をも破壊する暴挙にでますが、そのような中でもこの協奏曲は演奏され続け、180年経つ現代でも愛されてきました。
まさに人類の至宝とも呼ぶべき作品です。