学生時代、合唱の授業やコンクールで歌った方も多いでしょうか。
この「大地讃頌」は1962年に作曲されたカンタータ「土の歌」の終曲です。
カンタータは全部で7曲からなっていますが、「大地讃頌」は定番曲として独立して歌われることも多い名曲です。
しかし、その終曲に至るまでの歌詞・テキストがあってこの曲の本当の魅力が分かるはずです。
第1曲:「農夫と土」
畑に種をまき、育てる農民の生活を歌っています。
中間部は朝のさわやかな気持を表すかのように弾んでいますが、牧歌的な導入です。
第2曲:「祖国の土」
大地、星空、花咲く丘、地域によってもちろんイメージする姿は異なりますが、祖国を、郷土を愛する気持が金管楽器のファンファーレに始まり歌われます。
第3曲:「死の灰」
一転して歌詞も曲調も暗いものとなるこの曲は、戦争の愚かさを嘆く悲痛な叫び、死の灰とはもちろん広島・長崎に落とされた原爆への嘆きを歌います。
第4曲:「もぐらもち」
スケルツォのような軽快さはありますが、土に潜り目の見えないもぐらは戦争の愚かさを知る由もありません。
しかし「死の灰」をおそれる人間が地に潜ってでも逃げようとする姿をもぐらの視点から描いた歌詞は人間の愚かさを強調しています。
第5曲:「天地の怒り」
人間がどれほど科学を研究し、生物の頂点と奢っても、天災の前には無力です。
大雨、洪水、雷、火山、畑を耕す農民にも、死の灰を恐れる人間にも大地は時として凶暴な怒りを向けることになります。
第6曲:「地上の祈り」
自然の怒りに晒されたとしても、それでも人間は大地で生きています。
例えば大雨の後の虹を美しいと感じます。
時には恵みを、時には災害をもたらす自然と人はどのように向かい合うのか、科学の発展や戦争で傷つけた大地を前に何を考えるのか、そんなメッセージがあるのではないでしょうか。
第7曲:「大地讃頌」
ようやく終曲です。
遠い未来には人間は大地を捨て、宇宙に移住する時が来るのかもしれません。
しかし今の我々は大地によって生かされているのだ、その当たり前のことに気がつくべきではないか、と訴えかけます。
「大地讃頌」のみを取り上げてしまうと、綺麗な曲だけどなんだか説教臭いなと感じてしまうのですが、そこに至る6曲があってはじめて”感謝”の言葉が実感できるのではないでしょうか。
この曲はオーケストラ伴奏が原曲ですが、楽譜が一般には販売されていないこともありなかな演奏される機会がありません。
ピアノ伴奏では合唱の歌詞が中心となりますが、オーケストラ伴奏はカンタータとしての世界感がより豊かに表現された、また違う魅力のある曲となっています。
どちらが優れている、ということではないので演奏される機会があればぜひ足を運んでいただきたい名曲です。
※オーケストラ版は東京交響楽団のCDがリリースされています。
※オーケストラ版は東京交響楽団のCDがリリースされています。