2015/06/30

W.A.モーツァルト / ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478


数々の交響曲、室内楽曲、オペラなどを作曲した天才、古典派の大作曲家として大変有名なモーツァルトは29歳のときにこのピアノ四重奏曲を作曲しました。出版社からの依頼により、アマチュア演奏家のために三曲のピアノ四重奏曲を作曲することになったモーツァルトでしたが、紆余曲折を経て彼の生涯の中でも二曲しか作曲されることはありませんでした。ピアノと弦楽三重奏の組み合わせは当時大変珍しく、この曲がピアノ四重奏曲の始まりと言っても過言ではないのかもしれません。

力強いユニゾンのテーマとピアノの掛け合いから始まる1楽章は、モーツァルトにとっての運命の調性、交響曲第25番や第40番と同じト短調です。物悲しさが随所に感じられる提示部、その後の展開部では各楽器がかわるがわるモチーフを繰り返し、徐々に盛り上がりながら再現部へ突入します。

どこか懐かしさを感じさせられる2楽章。やさしいメロディーの中にも重厚感が入り混じり、途中ふわっとあたたかな空気になる瞬間にはモーツァルトらしさがふと呼び戻されます。モーツァルトは、どんな風景や出来事を思い浮かべながら作曲したのでしょうか。

1、2楽章とは打って変わって、3楽章は明るく楽しいロンドの楽章です。ピアノのコロコロとした音のかわいらしさ溢れる始まり、激しいピアノの3連符と攻撃的な弦楽器が印象的な中間部。何度も何度も繰り返されるテーマは少しずつ表情を変えながら盛り上がりのなか終わりを迎えます。

当初、「難解で大衆受けはしない」「アマチュアが演奏するには難曲である」などと評されましたが、200年以上を経て聴衆に愛される曲になったのだと思います。

2015/06/22

L.v.B.室内管弦楽団第35回演奏会

L.v.B.室内管弦楽団第35回演奏会

2015年11月22日(日) 府中の森芸術劇場ウィーンホール
13:30 開場 14:00 開演

指揮:
 広井 隆

独奏:
 印田 千裕

曲目:
 S.バーバー/弦楽のためのアダージョ Op.11
 J.ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第5番《運命》 ハ短調 Op.67

入場料:
 全席自由1,000円(前売800円)
 前売りチケットはイープラスにて取り扱い


待望のブラームスのヴァイオリン協奏曲!

3大ヴァイオリン協奏曲として知られるブラームスのヴァイオリン協奏曲。
「ヴァイオリン独奏を持つ交響曲」と言ってもおかしくない重厚な構成、ソロとオーケストラのバランス、そしてブラームスらしさ満載の主題転換と、ベートーヴェンの作品に劣らぬ「王道」の作品です。

ソリストとオーケストラも共演を重ね、満を持してお送りします。

共に演奏するのはソリストが留学していたイギリスの作曲家バーバー、より「弦楽のためのアダージョ」。
アメリカ大統領J.F.ケネディの追悼で用いられたことで知られる弦楽の作品です。

オーケストラの得意とするベートーヴェンは久しぶりの《運命》。
今回は新ブライトコプフ版(ブラウン版)でお届けします!

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会場アクセス:
 東府中駅(新宿駅から約25分、京王八王子駅から約20分)北口下車 徒歩7分

2015/06/20

R.G.シュトラウス/ホルン協奏曲第1番 Op.11

「ドン・ファン」「ばらの騎士」「ツァラトゥストラはかく語りき」などの大規模な管弦楽で知られるリヒャルト・シュトラウスですが、初期には規模も小さく古典的な作品を残しています。

編成はトロンボーンを持たない古典的な二管編成なので、後に作曲された「アルプス交響曲」のような四管編成・ホルン8本とは随分と規模に違いがあります。
しかしこの協奏曲の最初のハーモニーが始まった瞬間、これはリヒャルト・シュトラウスの曲である、と納得します。作曲した18歳という年齢を考えるとやや背伸びをした感じはしますが、彼らしい尊大で、貴族的な雰囲気を醸し出しているとは言いすぎでしょうか。

第1楽章はいかにもリヒャルト・シュトラウスなファンファーレから始まり、ロンド形式で自由に、そして楽しく曲が進みます。
第2楽章へは切れ目なく続きますが、変イ長調(フラット4つ)という調性で、アマチュアの苦手な「ドのフラット(つまりシの音)」や「ファのフラット(つまりミ・・・)」がでてきて不思議なハーモニーが続きます。中音域で朗々と続くソロがなんとも気持ちのよい時間です。

一瞬の全休止と間奏を挟み始まる第3楽章は、ロンド形式の名手であるモーツァルトがこの時代に生きていたらこのような曲を書いたのではないか、と妄想してしまうぐらいの傑作です。弾むようなホルンのソロとオーケストラとの対話がいつまでも続いて欲しいのですが、第1楽章の主題が回帰してお祭り騒ぎもやがて終演へと向かいます。

このホルン協奏曲も18歳の時に作曲されておりホルン奏者であった父親の影響を受けている、と言われます。
ホルンという楽器は木管アンサンブルでも金管アンサンブルでも活躍し、メロディー・リズム・ハーモニーとまさに万能の楽器で、古くはモーツァルトから、ベートーヴェン、ブラームス以降あらゆる作曲家に愛された楽器ではないでしょうか。

2015/06/16

G.マルトゥッチ/夜想曲 Op.70 Nr.1

「夜想曲」、あるいは「管弦楽のための夜曲」と呼ばれるこの曲はイタリアの作曲家マルトゥッチの作品です。

あまり馴染みのない作曲家ですが、ロマン派以降のイタリアの作曲家としては珍しくオペラを作曲していないこと、ワーグナーの作品のイタリア初演に尽力したこと、レスピーギの師、そしてマーラーが指揮した最後の演奏会の演目のひとつ、として知られています。

時代はドヴォルザークやグリーグ、ドビュッシー、そしてマーラーといった19世紀後半から20世紀にかけて活躍した作曲家と同年代です。
作風はやや古風で、ブラームスの作品を感じさせる、とはよく評されます。

イタリアの作曲家でオペラ以外の作品を書いたとなると、古くは「四季」や「調和の霊感」で知られるヴィヴァルディ、そして近代では「イタリアのセレナーデ」のフーゴ・ヴォルフ、そしてレスピーギでしょうか。 どうしてもロッシーニやマスカーニ、ヴェルディのオペラを思い浮かべるイタリアでは器楽作曲家はあまり日の目を見なかったようです。
そのためかドイツではブラームス、ブルックナー、ワーグナー、 フランスではフォーレやドビュッシーと管弦楽法が研究される一方でイタリアではあまり進んだ研究がされていませんでした。
そんな状況に危機感を感じたのか、名ピアニストとして名を馳せながら、指揮と音楽教育の道に進んだマルトゥッチはオペラよりも器楽、管弦楽に力を入れました。

レスピーギが「鳥」「ローマ三部作」「リュートのための古風な舞曲とアリア」といった名曲を残したのはこのマルトゥッチがいたからこそ、つまりフランスにおけるフォーレやフランク、ドイツではシューマンのような役割を果たしたとも言えます。

この「夜想曲」はオペラの間奏曲としても納得出来るぐらいに情熱的でロマンティックな小品です。
夜想曲とは夜一人で思いにふけているような雰囲気を音にした作品で、ショパンの作品がその最高峰でないでしょうか。

ショパン/夜想曲第2番
 

これはショパンらしい美しい作品ですが、マルトゥッチはそこはイタリアの人。
なんとも情熱あふれる曲として残されていました。


さて、最後の小ネタです。
マルトゥッチの作品は「マーラーが指揮した最後の演奏会の演目」としても知られています。

マルトゥッチ /ピアノ協奏曲第2番

ブラームスっぽい作品、と言われますが、ブラームスはこんなにメロディーは書けないような気もします。
でも何も言われずに聞いたらドイツの作曲家の印象がある作品ではないでしょうか。

さて、その「マーラーの最後の演奏会」は1911/2/21、カーネギーでのニューヨークフィルの演奏会でした。

プログラム
Sinigaglia / Le baruffe chiozzotte, Op. 32
Mendelssohn / Symphony No. 4 in A major, Op. 90, Italian
Martucci / Piano Concerto No. 2 in B-flat minor, Op. 66
Busoni / Berceuse élégiaque, Op. 42
Bossi / Intermezzi Goldoniani, Op. 127

いずれもイタリアの作曲家です。
マーラーはマルトゥッチの作品をたびたび取り上げていたとも言われていますが、果たしてこのプログラムは「単なるイタリア特集」だったのか、マーラーのなんらかの意図が込められていたのか・・・ご存知の方はぜひぜひご教示ください。

2015/06/15

F.メンデルスゾーン-B/交響曲第5番《宗教改革》ニ長調 Op.107

メンデルスゾーンは5つの交響曲を残しています。
(そのうち第2番は交響曲の名前を持つカンタータなので、実質は4曲と言えます。)
人気があるのは第3番《スコットランド》と第4番《イタリア》ですが、この第5番もなかなか根強い人気が(アマチュア演奏家には)あるようです。

第5番と最後の番号が振られていますが、交響曲では2番目と若い時代に作曲されました。
生前には何度か改訂されたようで、例えばベーレンライター版では第3楽章にはレチタティーボが含まれるていたりします。

編成上はメンデルスゾーンでは珍しくトロンボーンを含み、さらにコントラファゴットとセルパンで低音を強化しています。
セルパンはチューバが発明される前に用いられていた低音を担う楽器で、蛇のような不思議な形をした楽器です(「サーペント(蛇)」と語源が同じです)。

「宗教改革」のタイトル通り、1517年にマルティン・ルターにより始められた宗教改革をテーマとしています。ユダヤ人であるメンデルスゾーン一家は宗教的な迫害を逃れるために改宗をしたと伝えられますが、その宗教改革の300年の記念年にあわせて作曲されてました。
不安や争いを暗示するような第1楽章、平和だった頃を懐かしむような第2楽章から一転して深い悲しみをこらえるような第3楽章、そして絶望に沈む世界に光が差し込むように始まり、歓喜のうちに集結する第4楽章と、非常にドラマティックな曲に仕上がっています。

第4楽章、フルートのソロから始まるメロディーはルター自身が作曲した賛美歌「神はわがやぐら」を引用しています。
バッハやワーグナーも引用しており、ルター派では重要な賛美歌なのだそうです。

J.S.バッハ/『われらが神は堅き砦』BWV80 より

同じくバッハ/コラールBWV302


R.ワーグナー/皇帝マーチ