L.v.Bでは2013年3月の第28回演奏会や、遡っては2002年にもラヴェル本人の編曲による管弦楽版をお届けしていますが、今回は木管五重奏…広く演奏されているM.ジョーンズの手による編曲版です。
ラヴェルが第一次世界大戦後1917年に完成させたピアノ独奏曲は「Prelude」プレリュード、「Fugue」フーガ、「Forlane」フォルラー ヌ、「Rigaudon」リゴドン、「Menuet」ミニュイ、「Toccata」トッカータ、の6曲から成る組曲。これを1919年に、友人であり 第 6曲「Toccata」を捧げた音楽学者J.マルリアーヴ大尉の寡婦…戦争未亡人となっていた女流ピアニスト、マルグリット・ロンにより初演しています。 それを同年にオーケストレーションしたのが「Prelude」「Forlane」「Menuet」「Rigaudon」の4曲。ジョーンズ編の五重奏で は、管弦楽版から1曲チェンジがあり「Forlane」に代わって「Fugue」が入った4曲となっています。
この曲は、戦争レクイエムの側面があります。組曲の1曲ごと全てに、戦争で亡くなった友人の名前と階級を添えて捧げています。非常に愛国心の強かったラ ヴェルは、開戦前に書き始めた「18世紀フランス音楽を讃える舞曲集」の筆を中途で物資輸送車の運転手として従軍しました。そして終戦時、多数の友人が戦 死し最愛の母も病没していましたが、自分は生き残ってしまった…。ノルマンディーに引きこもって再びピアノに向かったとき、作曲開始当初の気分からは様 変わりした形での意味合いをも持つ組曲が仕上がりました。
優しく、そこはかとなく哀しい舞曲集に密やかに籠められた、悼み。と共に『活き活きと(vif)』という指定が何度も譜面に出てきますが「今を生きなくては、前を向いて」という吹っ切る覚悟のようなものも感じられます。
ピアノ版もラヴェル最後の独奏曲として難易度がとても高いと言われますが、管弦楽版も「オーボエ吹きの墓」の揶揄のみならず木管泣かせの難曲です。それを更に5本に凝縮するわけで、言わずもがなの難易度ではありますが…各曲の持つ雰囲気、ストーリーや色が、少しでも聴く方に伝わり思い浮かぶような演奏が出 来たら幸いです。