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2015/12/11

C.ライネッケ / オーボエ、ホルン、ピアノのためのトリオ イ短調 Op.188

  ベートーヴェンの第九交響曲が初演された1824年に北ドイツに生まれたカール・ライネッケ。メンデルスゾーンとシューマンの弟子で、ライネッケは彼らの約10歳年下。師匠の世代にはショパン、リスト、ヴァーグナー、ヴェルディなど錚々たるロマン派の大家が顔を揃え、同世代にブルックナー、さらに約10歳下にブラームスという時代に生きた人物です。

 作曲家としてその顔ぶれの中で、こと日本において、彼らほどの名声をライネッケが残しているとは言えません。フルートを学ぶ人なら、ライネッケのフルート協奏曲とフルートソナタ「ウンディーネ」は重要なレパートリーとしてご存知でしょう。他にはいくつかの室内楽曲が近年光を浴びつつあるくらい。しかし実は出版されているだけで約300曲、未出版を数えると1000曲以上となる、様々な分野にての膨大な曲を書いています。7歳には作曲を始め、13歳で作品1を出版し、亡くなる前年の84歳まで曲を生みだしています。オリジナル楽曲の他にも協奏曲のカデンツァ(モーツアルトのピアノ協奏曲の全て、ベートーヴェンの協奏曲が主とされ、特に現在よく実用されるモーツアルトの「フルートとハープのための協奏曲」のためのカデンツァを含めて、それらはライネッケの名前よりも有名になっていると言えます)、交響曲、ピアノ曲、協奏曲、歌曲、オペラなどジャンルは多岐に及び、さらに彼はピアニスト、教育者、指揮者としても長期間に渡り大変精力的に活動しました。

 ピアニストとしては10代で既に著名の域となり、デンマークの宮廷ピアニストを経て各地での大規模な演奏旅行(国王の奨学金による)、リストやクララ・シューマンと共催の演奏会も多数という第一流の演奏家。シューマンから作品72「4つのフーガ」を献呈され、リストからは二人の娘のピアノの指導を委ねられました。特にモーツアルトの名手として知られ、優美でリリカルなタッチ、歌うようなレガートがリストを感嘆させていたとの事。

 教育者としては、27歳からケルンの音楽院で作曲とピアノの教授を兼任してのち36歳でライプツィヒ音楽院の教授に就任します。院長を務めた最後の5年間を含めて実に40年以上をも、師であるメンデルスゾーンが開いたこの音楽院で教鞭をふるった事になります。教育の標準を確立するために、彼はバッハから同時代に至る数多のピアノ作品の校訂やトランスクリプション、さらに著名な管弦楽曲等のピアノ編曲を一手に引き受け、更に著作、子供や学生を対象とする教育作品も数多く。これらが模範的教材としてドイツで広く使用され、ドイツの音楽界の育成に多大な影響を与えた(現在も与え続けている)という教育界の重鎮です。彼の生徒にはグリーグ、ブルッフ、ヤナーチェク、ディーリアス、アルベニス、ワインガルトナーなどがおり、シベリウスも孫弟子です。穏健、誠実で慕われる人柄だったようで、また作品数や手がけた膨大な仕事と種類からも恐るべき勤勉さがうかがえます。

 指揮者としての経歴も素晴らしいものです。30歳からオーケストラ指揮者を務めるようになりバルメン、ブレスラウを経て36歳でゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者に就任してからは35年に亘って当オーケストラを統率し、屈指の力量を定着させました(音楽院の教授業や作曲とも勿論、同時進行です)。ブラームスの「ドイツ・レクイエム」全曲初演をはじめ、後輩たちの作品をも多数取り上げています。

 さて、ここまでそんなライネッケの業績をご紹介してきました。どれも超一流であったことは分かります、それらの全てを質の高い仕事内容で両立させた超人的な存在自体が驚きなのですが、調べるほどに そんな彼の名前が没後100年を経た現在、一般にあまり知られていないことに更なる驚きを覚えずにいられません。

 理由として、活動領域の量と範囲と質が大きすぎるために、まず いったい彼が何者であったのか全体像をひとくちで語れず、ジャンルで突出しないため埋没しがちであること。また、作曲家として、前述の通り10年前後の世代にあれだけの個性的な面々が立ち並ぶ中で、系譜的にはシューマンとブラームスを繋ぐロマン派の中枢でありながら、立場上 古典にも新風にも精通しつつ、同時代のあらゆる作曲技法を自在に操れたゆえに包摂してしまい、オリジナリティの欠如という危険を孕みました。決して模倣ではないのに、個性の強烈なシューマンやメンデルスゾーン、ブラームス『の影響』といった比喩・印象が付き纏ってしまう評価を安易に下されがちです。また教育作品でも有名であるがために、その方面が得意ととられて、演奏家からの無関心やプログラム編成上の敬遠を招くケース。そして、推論として度々聞かれるのが、いわゆる超絶技巧など派手に目を引く箇所が少なく、作風は堅実で保守的(メンデルスゾーンから引き継いだ音楽院の方針でもあります)とされ、要するに「どちらかと言うとパッとしない」「傾向的に地味だろう」という印象。こうして没後は多くの作品が埋もれていったとみられます。

 ですが、今回ここで取り上げる三重奏でお聴き頂けます通り、「パッとしない」そんな印象はおそらくお持ちいただけないはずです。堅実で保守的?確かに、書式は破綻ない堅実さですし、無理のある音域が基本的に排されて管楽器にはシューマン作品などよりはるかに息継ぎに配慮もあると同時に、確かに超絶技巧をひけらかす、とまでの派手派手しい場面は無さそうです。だからと言って易しいかと言うと飛んでもありません。それらの配慮がある上で、それぞれの楽器の特性やプレーヤーの個性、フレージングと表現についての考えと実現力を絶妙なラインで深く問う、譜面上はシンプルに見えて奏者を育てる目的が随所に仕込まれているようで唸らされる(さすが教育のプロとも思わされながら取り組んでいます)ものにもなっています。金管楽器代表、木管楽器代表、そして鍵盤の王様ピアノフォルテ。誰も脇役でもなく独立した音色と個性の三つ巴のような扱いです。この3つの楽器のチョイスと、それらに受け持たされたのが、1.300曲の中で何故こういう役目、立ち回りなのか?それもまたライネッケという人物と考え方について興味深く思わされます。

 そして技術的な事とは別に、音楽的に「パッとしない」かどうか。これも飛んでもない話で、とても人間的、有機的で魅力的な音楽が詰まっていると思います。ドイツの音楽教育界の権化でガチガチかと思いきや、こんな柔軟な引き出しも持っているのかという、驚くほど楽しげであったり、優しさに満ちていたり、ドラマティックだったり。さながら映画音楽のような楽章もあります。季節でイメージするとしたら、1楽章は秋。2楽章は初夏。3楽章は春、それも桜の頃。4楽章は…春でも夏でもスキーでもいい、とにかく行楽日和、というところでしょうか。

 この曲は作品番号188番、42歳の頃なのでライプツィヒで教授職と指揮者就任から7年目の時期のものです。今回のトリオも、40歳前後のメンバー3人での組み合わせとなり、奇しくも作曲家の人生のタイミングに近いようです。作品評として「苦み走った大人の音楽」との声もあるこの曲、(この印象は楽章が限定されると思いますが…)そろそろ人生も演奏も色々な経験を積みつつある3人、どのような人間模様をお見せできるでしょうか。

2015/12/07

C.C.サン=サーンス / 七重奏曲 変ホ長調 Op.65

日本では明治帝の皇太子(大正天皇)のご誕生に沸き、滝廉太郎が生まれた明治12年(1879年)、サン=サーンス44歳の時にこの作品は作曲されました。
その楽器編成は当時でも今でも、とても珍しくピアノと弦楽五重奏にトランペットを加えた編成です。
全4楽章で20分弱程度の作品ですが、シンプルで古風なバロック的構成の中にもフランス風な洒落たメロディーにあふれています。
 1867年にE・ルモワーヌが設立した室内楽協会「ラ・トロンペット」のために書かれ彼に献呈されています。

第1楽章 序曲(Preambule) アレグロ・モデラート 変ホ長調 4分の4拍子
 堂々とした序奏に始まりアレグロの主部につながります。展開部では3楽章の主題も聞かれ短いながらも先の展開を予測させる楽章です。終結部では華やかな変ホ長調の分散和音も聞きどころです。

第2楽章 メヌエット(Menuet) モデラート 変ホ長調 4分の3拍子  
 古典的スタイルの典型的なメヌエットです。中間部はユニゾンで奏でられる、いかにもサン=サーンスらしい美しい旋律が印象的な楽章です。 どこか動物の謝肉祭を想わせるメロディーです。

第3楽章 間奏曲(Intermede) アンダンテ ハ短調 4分の4拍子  
 全曲の中で唯一の短調の楽章です。
 1楽章で提示された主題が展開されていきます。美しくも悲しき旋律を惜しみ後ろ髪を引くかのような第2主題が印象的です。

第4楽章
 ガヴォットとフィナーレ(Gavotte et final) アレグロ・ノン・トロッポ 変ホ長調 2分の2拍子  
 前半は、ピアノと弦楽器による軽快なガボット(古典舞曲)が続きます。 中間部からトランペットが印象的な信号ラッパの音を鳴らしながら盛り上がっていきます。  
 曲は速度を上げながら盛り上がっていき一気に終わります。

ちなみにサン=サーンスの名曲、ヴァイオリン協奏曲第3番は翌1880年の作曲です。(Trp. S)

2015/12/05

山形明朗(ピアノ)

山形明朗 Akira Yamagata

東京藝術大学大学院音楽研究科器楽専攻(ピアノ)修了。

在学中より石川ミュージックアカデミー、Kors Muzyczny in Bialystokに参加(ディプロマ取得)、また、静岡音楽館AOI主催2006年度ピアノ伴奏法講座にて野平一郎氏に師事するなどの研鑚を積む。

第12回宝塚ベガ音楽コンクールピアノ部門第一位、同時に特別賞受賞。

これまでにソリストとして、モーツァルト、ベートーヴェン、チャイコフスキー、ラフマニノフなどのピアノ協奏曲を各地のオーケストラと共演。2013年3月にはルーマニア国立コンスタンツァ歌劇場オーケストラに招聘され、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番を共演しヨーロッパデビューを果たした。

アンサンブル・ピアニストとしても、「JTが育てるアンサンブルシリーズ」、「東京藝術大学シューマン・プロジェクト」などに出演、主に声楽家・弦楽器奏者のパートナーとして、国内外で活発な演奏活動を繰り広げている。また、バリトン歌手としてはルネサンスから古典派までを中心に、宗教曲のソロを含めたアンサンブル活動を続けている。モーツァルトアカデミートウキョウ、仙台コレギウムムジクム、各メンバー。

新潟県上越市出身。

2015/12/03

J.M.ウェーバー / 七重奏曲『我が生涯より』ホ長調

まず「我が生涯より」という曲を思い浮かべると、まず出てくるのは“ベドジフ・スメタナ”の弦楽四重奏曲という方が大半かと思われます。 ですが今回演奏しますのは、“ヨゼフ・ミロスラフ・ウェーバー (以下、J.M.ウェーバー) ”が作曲した弦楽器と管楽器混合の七重奏曲です。
そこでさらに思うこと、それは「ウェーバーって、あの魔弾の射手で有名なウェーバーさん…でもないの!?」ということではないでしょうか?
そうなのです、ウェーバーはウェーバーでもこのJ.M.ウェーバーは、1854年から1906年に生きたチェコのヴァイオリニストで、この「我が生涯より」以外には弦楽四重奏曲とヴァイオリン協奏曲を作曲している、ということ以外に全く情報がない、いわゆる「超マイナー作曲家」に分類されるのでは…?というくらいの隠れた作曲家であります。

そんなJ.M.ウェーバーが作曲した「我が生涯より」は、チェコらしい曲調にボヘミアの風を感じるような、以下の表題付きの四つの楽章から構成されています。

チェロのアルペジオとホルンのメロディが川の流れを彷彿とさせる、ゆったりとした曲調の第一楽章、“モルダウの岸辺から、青春の夢(おだやかなテンポで) ” 
ヴァイオリンの快活なメロディがこれからの人生への明るい希望を抱かせる第二楽章、“学生時代;人生の理想(スケルツォ) ” クラリネットからファゴットへ続くのもの哀しげな動機、そして最愛の人を失った悲痛をヴァイオリンが歌い上げ、「いつまでも悲しんではいられない、いや、でも愛するお前がいなくて僕は絶望しているのだよ…しかし、前を向いて歩かなくては!」という心の葛藤を表すような第三楽章“愛する人の墓で(アダージョ・マ・ノン・トロッポ) ”
社会の荒波で戦っているかのようなビオラの勇ましいメロディ、一旦その状況から落ち着くかのように奏でられるコラール、そんな希望を打ち砕くかのようにまた冒頭のメロディが出てきて、そして思考が止まり、昔のことを思い出すかのように第一楽章の旋律が蘇り、その人生が終わるかのように静かに収束していく第四楽章“生存競争の中で;欺かれた希望;青春時代の思い出(フィナーレ) ” 

今回この曲を演奏いたしますメンバーは、全員が1980年代生まれという当団でも比較的?若手のメンバーで構成されています。 これから待ち受ける人生がどうなっていくかは全くわからないし、まだ自分の人生を語れるほど大人にはなりきれていない…しかし、自分たちの「今」、そしてそれぞれの抱く「未来」への思いを存分に表現して演奏いたします。 残念ながらあまり日の目を浴びられていない曲ではありますが(何故この編成にホルンが2本なのか、というのも疑問ではありますが)、往年の名曲に負けないくらいの素敵なメロディ溢れる曲ですので、最後まで楽しんでお聴きいただければ幸いです。

2015/11/29

演奏会履歴(第26~30回)

第26回演奏会
<<ドビュッシー・ディーリアス・メーテルリンク生誕150周年>>
2012年9月2日(日)
 府中の森芸術劇場 ウィーンホール 指揮:広井 隆

 G.U.フォーレ/「ペレアスとメリザンド」 作品80
 F.T.A.ディーリアス/「2つの水彩画」
 C.A.ドビュッシー/「フランソワ・ヴィヨンの詩による3つのバラード」
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第7番 イ長調 作品92
 E.A.Lサティ(C.A.ドビュッシー編曲)/ジムノペディ第1番(アンコール)

第27回演奏会
2013年1月27日(日)
 五反田文化センター 音楽ホール 指揮:苫米地 英一

 S.ブリテン/聖エドモンズバリーのためのファンファーレ
 G.H.ヘンデル/水上の音楽第2組曲 ニ長調 HWV349
 W.A.モーツァルト/交響曲第40番 ト短調 K.550
 L.v.ベートーヴェン/ロンディーノ
 J.ブラームス/セレナード第2番 イ長調 作品16
 J.シュトラウス/ピチカート・ポルカ(アンコール)
第28回演奏会
2013年3月24日(日)
 府中の森芸術劇場 ウィーンホール 指揮:広井 隆

 J.M.ラヴェル/クープランの墓
 C.C.サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調作品33(独奏:印田 陽介)
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調作品60
 G.U.フォーレ/マスクとベルガマスクよりメヌエット(アンコール)
第29回演奏会
2013年9月23日(月)
 府中の森芸術劇場 ウィーンホール 指揮:広井 隆

 J.ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲 作品56a
 W.A.モーツァルト/歌劇「劇場支配人」 K.486
  ソプラノ: 田子 雅代(マダム・ヘルツ)
  ソプラノ: 和田 友紀菜(マドモワゼル・ジルバークラング)
  テノール: 田口 昌範(ムッシュ・フォーゲルザンク)
  バリトン: 岩崎 恭男(ブッフ)
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第2番 ニ長調 作品36
 G.フォーレ/ドリーより「ミ・ア・ウ」(アンコール)

第30回演奏会   
2014年3月2日(日)
 府中の森芸術劇場 ウィーンホール 指揮:広井 隆

 J.M.ラヴェル/バレエ「ジャンヌの扇」よりファンファーレ
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第6番へ長調<<田園>> 作品68
 J.ブラームス/交響曲第4番ホ短調 作品98
 J.ブラームス/ハンガリー舞曲第1番(アンコール)

2015/11/15

S.バーバー/弦楽のためのアダージョ Op.11

厳かな祈りの音楽、中間部のドラマティックな音楽、嘆きのうちに収束する結末と、10分ほどの小品ながらアマチュア・プロを問わず人気のあるこの曲は、イギリスの作曲家サミュエル・バーバーが元々は弦楽四重奏として作曲した曲を弦楽合奏に編曲したものです。

通称「バーバーのアダージョ」とも呼ばれますが、クラシックにあまり馴染みのない人でも、オリバー・ストーンがベトナム戦争を描いた映画『プラトーン』やJ.F.ケネディの葬儀、N響による昭和天皇の追悼演奏会を始め、映画やドラマで耳にされたことがあるのではないでしょうか。

曲は静かなハーモニーに始まります。
前半は救いを求めるかのように音が上昇をしようとする単調な音型が続きますが、なかなか果たすことができないまま、各パートを巡っていきます。
やがて中間部で低弦から高弦にむかってオクターブの跳躍を繰り返し、その祈りを届けようと曲はドラマティックな盛り上がりを見せます(このあたりは各パート音が高くなり、難しくなってくるところです)。
しかし その願いは果たされず、全休止(オーケストラ全体が止まってしまうこと)の後3回の嘆きの旋律が繰り返され再び全休止を迎えます。
そして冒頭のフレーズが再開されますが、最後には力尽き収束を迎えます。

バーバー自身は葬儀や追悼の場面で演奏されることが多いことに納得できなかったそうですが、ベートーヴェンの交響曲第3番・第7番の第2楽章やバッハのアリア(管弦楽組曲第3番の1曲)と並び、人の心に染みる音楽であることは確かです。

2015/11/10

J.ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77

ヴァイオリン協奏曲の王様と言えばやはりベートーヴェンです。
そしてメンデルスゾーンとこのブラームスをあわせた3曲が「3大協奏曲」またはチャイコフスキーを含めて「4大協奏曲」とこのジャンルの最高峰の1曲でしょう。


なかでもブラームスの協奏曲は演奏難易度が格段に上がります。
ハイポジションや重音奏法の連続、オーケストラとの複雑な絡み合い・・・ブラームスの綿密な作り込みがあり、「ソリストとオーケストラ」ではなく独奏楽器すら1つのパートにすぎないような
交響的な曲に仕上がっています。

作曲されたのは1878年、ブラームスが45歳の時です。
すべてにおいて慎重なブラームスの作品では1877年に交響曲第2番作品73、続く作品78にはヴァイオリンソナタの「雨の歌」、作品80「大学祝典序曲」、作品81「悲劇的序曲」と言った脂ののった時期の作品と言えます。

作曲された経緯は諸説ありますが、親友ヨアヒムの演奏するベートーヴェンの協奏曲に感銘を受けたと言われています。そしてイタリア旅行の間に親友の助言を受け(しかしすべては受け入れずに)完成されたのがこのヴァイオリン協奏曲です。

初演もヨアヒムの独奏、ブラームスの指揮によって行われ、大変好評だったようです。
全体の半分近くを占める第1楽章はどこか牧歌的な雰囲気に始まり、様々なテーマがオーケストラによって提示され、独奏とオーケストラが変形させていくブラームスらしい楽章です。
 第2楽章は一転オーボエの美しい旋律が続き、サラサーテなどはこのオーボエのソロを聴きながら待っているのが悔しく演奏しなかったという逸話が残っているほどです。当初は4楽章の構成がありましたが、中間の2曲を廃棄してこの第2楽章が作曲されたと言われています。
最後の第3楽章はジプシー風のロンドで、楽しげなお祭り騒ぎの1曲です(ブラームスがここまではっちゃけるのも珍しい?)。最後はトルコ行進曲のような曲に変わり、楽しかった夢の時間が終わるように締めくくられます。

同じ年にチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が作曲されていますが、チャイコフスキーはブラームスの曲を「詩情が欠ける」と評したそうです。
チャイコフスキーの譜面はユニゾン(複数の楽器が同じ旋律を同時に演奏すること)が多く、シンプルではありますが美しい旋律に満ちています。ブラームスはその対極で、計算し、練りに練られた構成、1つの主題をこれでもかと使い回すところがチャイコフスキーが辛口になるところでしょう。

ブラームスは決してワーグナーやリストのように新しいジャンルを開拓したわけではなく、しかしながらこのややこしさがまた魅力なのだ、と年を取るに連れて味わいが深く感じられる作曲家ではないでしょうか。

2015/11/09

L.v.B.室内管弦楽団第36回演奏会

L.v.B.室内管弦楽団第36回演奏会

2016年3月21日(月・祝) 府中の森芸術劇場ウィーンホール
13:30 開場 14:00 開演

指揮:
 苫米地 英一

独奏:
 山形 明朗

曲目:
 J.シベリウス/「カレリア」組曲 Op.11
 L.v.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番《皇帝》 変ホ長調 Op.73
 J.ブラームス/交響曲第3番 ヘ長調 Op.90

入場料:
 全席自由1,000円(前売800円)
L.v.B .室内管弦楽団第36回演奏会


総勢40名ほどの室内管弦楽団、通常のオーケストラの半分以下の人数で演奏するブラームスに取り組んできました。
第1番・第4番に続く3回目では「ブラームスの英雄交響曲」とも称される第3交響曲を取り上げます。

あわせて演奏するのはベートーヴェンの「英雄交響曲」・・・ではなく、「皇帝」のサブタイトルを持つピアノ協奏曲第5番。
冒頭和音が鳴り響くと共に豪華絢爛な宮廷を想いを馳せてしまう、運命や闘争とは離れた、ベートーヴェン中期の充実した明快な作品です。 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は「王様」のイメージですが、この「皇帝」は双璧をなす大曲でしょう!

お問い合わせ:
 メールでのお問い合わせ




会場アクセス:
 東府中駅(新宿駅から約25分、京王八王子駅から約20分)北口下車 徒歩7分


演奏者の募集をしています。
見学随時可能です。
まずはお気軽に事務局までお問い合わせください。

メールでのお問い合わせ→lvb.c.orch@gmail.com

団員募集について
http://ludwig-b.blogspot.jp/2014/11/lvb.html

2015/10/20

演奏会のご案内(印田千裕&印田陽介 デュオリサイタル ヴァイオリンとチェロの響き Vol.4)

第35回演奏会ソリストの印田千裕さんのリサイタルのご案内です。

日時:
 2015.10.27(火) 18:30開場/19:00開演
会場:
 銀座 王子ホール(東京都中央区銀座)
料金:
 全自由席 前売 3,500円(当日 4,000円)
プログラム
 ロンベルグ:「魔王」の主題による変奏曲
 遠藤雅夫:「風の道」 ヴァイオリンとチェロのための
 ヘルマン:華麗なる大二重奏曲 Op.12  他

お問い合わせ:マリーコンツェルト 047-482-3171
主催:マリーコンツェルト
協力:ミュージックプラザ、ストラミュージック、スズキメソード、トゥインクル音楽院


2015/09/10

L.v.B.室内管弦楽団 室内楽演奏会vol.5

2016年1月10日(日) 五反田文化センター 音楽ホール
13:00 開場 13:30 開演
入場無料
 
曲目:
 L.v.ベートーヴェン / 2つのオブリガート眼鏡付きの二重奏曲 変ホ長調 WoO 32 より
 J.M.ウェーバー / 七重奏曲『我が生涯より』ホ長調
 W.A.モーツァルト / セレナード第13番 ト長調 K.525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
 C.ライネッケ / オーボエ、ホルン、ピアノのためのトリオ イ短調 Op.188
 C.C.サン=サーンス / 七重奏曲 変ホ長調 Op.65


室内楽シリーズも3年目、vol5となりました。
今回はいつものティアラ江東から五反田文化センターに会場を移し、弦楽合奏を含む名曲・迷曲をお送りします。

まずはベートーヴェン初期の作品である「メガネ付きの二重奏曲」。
視力の悪い友人二人のために作曲した、とのことですが真偽はいかに。
名前は知られているけれど演奏会で聴くことは滅多にない曲となっています。

続けてはウェーバーの七重奏曲。
七重奏というとベートーヴェンが有名ですが、こちらの曲は「魔弾の射手」や「オベロン」知られるウェーバー・・・ではなく、1854年プラハ生まれの作曲家です。
作曲家の情報が著しく少なく、Wikipediaのドイツ語・チェコ語に僅かながら記載があるぐらいでした。
サロン風ながらどこかジプシー音楽を感じされる、ちょっと不思議な曲となっています。

一転してモーツァルトの「アイネクライネ」。
こちらはベートヴェンの「ジャジャジャジャーン」と肩を並べる有名曲です。
今回は弦楽合奏でお送りします。

そして最後にピアノ入りの室内楽を二曲。
ライネッケのトリオとサン=サーンスの七重奏曲。
ライネッケはメンデルスゾーンに師事し、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」の初演を指揮するなど指揮者としても活躍をした人物です。
どこかブラームスを感じさせる響きですが、オーボエとホルン、どちらも美しいメロディーを奏でる優雅な時間です。

最後にサン=サーンス。
弦楽五重奏とトランペットとピアノという、類似の編成がほとんどない曲です。
古典風に仕上げながらも、サン=サーンスらしい感じに仕上げられており、15分ほどと短いながらもとても充実した曲となっています。

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会場アクセス:
 JR山手線、都営地下鉄浅草線、東急池上線「五反田駅」より徒歩約13分
 東急池上線「大崎広小路駅」より徒歩約10分
 東急目黒線「不動前駅」より徒歩約10分

 

2015/07/27

J.ブラームス / 弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 Op.18

ブラームスは慎重で完璧主義者で意固地な性格であった、とは色々な資料から読み取れます。
室内楽の分野では(ピアノ曲や歌曲を除いても)名作を多く残した、というよりは残された作品の全てが名作ですが、交響曲と同じくベートーヴェンの作品に続くことに慎重であったブラームスは弦楽四重奏ではなく、弦楽六重奏曲からまず手がけたのでした。
 2曲の弦楽六重奏曲は比較的初期に作曲されています、と言いながらも彼が27歳の時の作品です。

この弦楽六重奏曲という編成は実は珍しく、ブラームスの2曲の他にはチャイコフスキーの「フィレンツェの思い出」、シェーンベルクの「浄夜」が有名でしょうか。
ボロディンやドヴォルザークも作品を残していますが、あまり演奏される機会はないように思います。厳密には室内楽ではないのですが、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「カプリッチョ」の前奏曲が弦楽六重奏曲となっており、こちらの方がアマチュアでもよく演奏されています。

編成は弦楽四重奏にビオラとチェロを1本ずつ加えていますので、よく言えば厚みのある、しかしながらやや「重い」曲となるので、演奏する側としてはそのバランスを取るのがなかなか難しいところです。


この第2楽章が有名で、悲劇的な曲調が印象的です。
映画のBGMに使われたことでも知られています。

 
(ルイ・マル監督「恋人たち」)

ブラームスといえば師シューマンの愛妻クララとの恋話ですが、この映画も知ってか知らずか不倫の物語です・・・。
映画に使われたブラームスというとサガンの「ブラームスはお好き」の映画版、「さよならをもう1度」でも使われています。
こちらもまた浮気をテーマとした作品ですね。。。

そんなエピソードはともかく、曲全体はどちらかと言えば若さを感じさせながらも、この第2楽章のドラマティックで悲劇的な雰囲気が全体を引き締めているのは確かです。

個人的なおすすめですが、この曲を雨の日のドライブのBGMでよく聴いています。
特に第1楽章は(ブラームスにしては珍しいことに)若さと躍動感に溢れる曲ですので、新緑の時期の雨のイメージにとてもよく合います。
雨の日のドライブは憂鬱だな、という時にぜひぜひお試しください。

ちなみに、六重奏曲第2番では別れた恋人の未練を断ち切るために、その名前を音型に記したとの逸話があります。
堅いイメージのブラームスですが、どうも恋話に結び付けられることが多いのが羨ましい・・・もとい不思議ですね。


2015/07/04

L.テュイレ / ピアノと木管五重奏のための六重奏曲 変ロ長調 Op.6


テュイレ(Ludwig Wilhelm Andreas Maria Thuille,1861- 1907,トゥイレとも表記)は、オーストリア出身のドイツの作曲家です。45歳の若さで亡くなりましたが、楽器の取扱いに優れた技量を発揮し、室内楽曲に献身した多作な作曲家です。R.シュトラウスも若い頃に一員であった「ミュンヘン楽派」の代表者とされています。

この曲は28歳で妻のために書かれ、同年にドイツの音楽祭で初演されました。

第1楽章Allegro moderato
ソナタ形式。ホルンにより雄大な主題が始められ、他楽器からピアノに受け継がれた後、クラリネットが柔らかく第2主題を奏でます。中間部では2つの主題が時々顔を覗かせつつ、最後は一気に加速して力強く終わります。

第2楽章Larghetto
第1楽章に同じくホルンで始まり、他楽器からピアノに受け継がれ、最大の盛り上がりを迎えます。その後、木管の静かな旋律で落ち着きを取り戻し、ホルンが冒頭を再現すると、ピアノが静かに回想しつつ終わります。

第3楽章Gavotte,Andante quasi Allegretto
これまでとは打って変わり、オーボエによる軽やかな旋律で始まり、各楽器に受け継がれます。中間部はオーボエによるおどけた旋律の第2主題で祝祭的に盛り上がります。やがてピアノによる冒頭主題に戻った後、突然あっさりと終わります。

第4楽章Finare
木管の小刻みで軽快な和音に合わせ、ピアノが主題を奏でます。やがて、ホルンにより第2主題が転調を繰り返しながらしばらく演奏されると、やがて再び、冒頭主題に戻ります。その後突然の一瞬の静けさの後、一気に加速し、華やかに全曲の幕を閉じます。

2015/06/30

W.A.モーツァルト / ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478


数々の交響曲、室内楽曲、オペラなどを作曲した天才、古典派の大作曲家として大変有名なモーツァルトは29歳のときにこのピアノ四重奏曲を作曲しました。出版社からの依頼により、アマチュア演奏家のために三曲のピアノ四重奏曲を作曲することになったモーツァルトでしたが、紆余曲折を経て彼の生涯の中でも二曲しか作曲されることはありませんでした。ピアノと弦楽三重奏の組み合わせは当時大変珍しく、この曲がピアノ四重奏曲の始まりと言っても過言ではないのかもしれません。

力強いユニゾンのテーマとピアノの掛け合いから始まる1楽章は、モーツァルトにとっての運命の調性、交響曲第25番や第40番と同じト短調です。物悲しさが随所に感じられる提示部、その後の展開部では各楽器がかわるがわるモチーフを繰り返し、徐々に盛り上がりながら再現部へ突入します。

どこか懐かしさを感じさせられる2楽章。やさしいメロディーの中にも重厚感が入り混じり、途中ふわっとあたたかな空気になる瞬間にはモーツァルトらしさがふと呼び戻されます。モーツァルトは、どんな風景や出来事を思い浮かべながら作曲したのでしょうか。

1、2楽章とは打って変わって、3楽章は明るく楽しいロンドの楽章です。ピアノのコロコロとした音のかわいらしさ溢れる始まり、激しいピアノの3連符と攻撃的な弦楽器が印象的な中間部。何度も何度も繰り返されるテーマは少しずつ表情を変えながら盛り上がりのなか終わりを迎えます。

当初、「難解で大衆受けはしない」「アマチュアが演奏するには難曲である」などと評されましたが、200年以上を経て聴衆に愛される曲になったのだと思います。

2015/06/22

L.v.B.室内管弦楽団第35回演奏会

L.v.B.室内管弦楽団第35回演奏会

2015年11月22日(日) 府中の森芸術劇場ウィーンホール
13:30 開場 14:00 開演

指揮:
 広井 隆

独奏:
 印田 千裕

曲目:
 S.バーバー/弦楽のためのアダージョ Op.11
 J.ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第5番《運命》 ハ短調 Op.67

入場料:
 全席自由1,000円(前売800円)
 前売りチケットはイープラスにて取り扱い


待望のブラームスのヴァイオリン協奏曲!

3大ヴァイオリン協奏曲として知られるブラームスのヴァイオリン協奏曲。
「ヴァイオリン独奏を持つ交響曲」と言ってもおかしくない重厚な構成、ソロとオーケストラのバランス、そしてブラームスらしさ満載の主題転換と、ベートーヴェンの作品に劣らぬ「王道」の作品です。

ソリストとオーケストラも共演を重ね、満を持してお送りします。

共に演奏するのはソリストが留学していたイギリスの作曲家バーバー、より「弦楽のためのアダージョ」。
アメリカ大統領J.F.ケネディの追悼で用いられたことで知られる弦楽の作品です。

オーケストラの得意とするベートーヴェンは久しぶりの《運命》。
今回は新ブライトコプフ版(ブラウン版)でお届けします!

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会場アクセス:
 東府中駅(新宿駅から約25分、京王八王子駅から約20分)北口下車 徒歩7分

2015/06/20

R.G.シュトラウス/ホルン協奏曲第1番 Op.11

「ドン・ファン」「ばらの騎士」「ツァラトゥストラはかく語りき」などの大規模な管弦楽で知られるリヒャルト・シュトラウスですが、初期には規模も小さく古典的な作品を残しています。

編成はトロンボーンを持たない古典的な二管編成なので、後に作曲された「アルプス交響曲」のような四管編成・ホルン8本とは随分と規模に違いがあります。
しかしこの協奏曲の最初のハーモニーが始まった瞬間、これはリヒャルト・シュトラウスの曲である、と納得します。作曲した18歳という年齢を考えるとやや背伸びをした感じはしますが、彼らしい尊大で、貴族的な雰囲気を醸し出しているとは言いすぎでしょうか。

第1楽章はいかにもリヒャルト・シュトラウスなファンファーレから始まり、ロンド形式で自由に、そして楽しく曲が進みます。
第2楽章へは切れ目なく続きますが、変イ長調(フラット4つ)という調性で、アマチュアの苦手な「ドのフラット(つまりシの音)」や「ファのフラット(つまりミ・・・)」がでてきて不思議なハーモニーが続きます。中音域で朗々と続くソロがなんとも気持ちのよい時間です。

一瞬の全休止と間奏を挟み始まる第3楽章は、ロンド形式の名手であるモーツァルトがこの時代に生きていたらこのような曲を書いたのではないか、と妄想してしまうぐらいの傑作です。弾むようなホルンのソロとオーケストラとの対話がいつまでも続いて欲しいのですが、第1楽章の主題が回帰してお祭り騒ぎもやがて終演へと向かいます。

このホルン協奏曲も18歳の時に作曲されておりホルン奏者であった父親の影響を受けている、と言われます。
ホルンという楽器は木管アンサンブルでも金管アンサンブルでも活躍し、メロディー・リズム・ハーモニーとまさに万能の楽器で、古くはモーツァルトから、ベートーヴェン、ブラームス以降あらゆる作曲家に愛された楽器ではないでしょうか。

2015/06/16

G.マルトゥッチ/夜想曲 Op.70 Nr.1

「夜想曲」、あるいは「管弦楽のための夜曲」と呼ばれるこの曲はイタリアの作曲家マルトゥッチの作品です。

あまり馴染みのない作曲家ですが、ロマン派以降のイタリアの作曲家としては珍しくオペラを作曲していないこと、ワーグナーの作品のイタリア初演に尽力したこと、レスピーギの師、そしてマーラーが指揮した最後の演奏会の演目のひとつ、として知られています。

時代はドヴォルザークやグリーグ、ドビュッシー、そしてマーラーといった19世紀後半から20世紀にかけて活躍した作曲家と同年代です。
作風はやや古風で、ブラームスの作品を感じさせる、とはよく評されます。

イタリアの作曲家でオペラ以外の作品を書いたとなると、古くは「四季」や「調和の霊感」で知られるヴィヴァルディ、そして近代では「イタリアのセレナーデ」のフーゴ・ヴォルフ、そしてレスピーギでしょうか。 どうしてもロッシーニやマスカーニ、ヴェルディのオペラを思い浮かべるイタリアでは器楽作曲家はあまり日の目を見なかったようです。
そのためかドイツではブラームス、ブルックナー、ワーグナー、 フランスではフォーレやドビュッシーと管弦楽法が研究される一方でイタリアではあまり進んだ研究がされていませんでした。
そんな状況に危機感を感じたのか、名ピアニストとして名を馳せながら、指揮と音楽教育の道に進んだマルトゥッチはオペラよりも器楽、管弦楽に力を入れました。

レスピーギが「鳥」「ローマ三部作」「リュートのための古風な舞曲とアリア」といった名曲を残したのはこのマルトゥッチがいたからこそ、つまりフランスにおけるフォーレやフランク、ドイツではシューマンのような役割を果たしたとも言えます。

この「夜想曲」はオペラの間奏曲としても納得出来るぐらいに情熱的でロマンティックな小品です。
夜想曲とは夜一人で思いにふけているような雰囲気を音にした作品で、ショパンの作品がその最高峰でないでしょうか。

ショパン/夜想曲第2番
 

これはショパンらしい美しい作品ですが、マルトゥッチはそこはイタリアの人。
なんとも情熱あふれる曲として残されていました。


さて、最後の小ネタです。
マルトゥッチの作品は「マーラーが指揮した最後の演奏会の演目」としても知られています。

マルトゥッチ /ピアノ協奏曲第2番

ブラームスっぽい作品、と言われますが、ブラームスはこんなにメロディーは書けないような気もします。
でも何も言われずに聞いたらドイツの作曲家の印象がある作品ではないでしょうか。

さて、その「マーラーの最後の演奏会」は1911/2/21、カーネギーでのニューヨークフィルの演奏会でした。

プログラム
Sinigaglia / Le baruffe chiozzotte, Op. 32
Mendelssohn / Symphony No. 4 in A major, Op. 90, Italian
Martucci / Piano Concerto No. 2 in B-flat minor, Op. 66
Busoni / Berceuse élégiaque, Op. 42
Bossi / Intermezzi Goldoniani, Op. 127

いずれもイタリアの作曲家です。
マーラーはマルトゥッチの作品をたびたび取り上げていたとも言われていますが、果たしてこのプログラムは「単なるイタリア特集」だったのか、マーラーのなんらかの意図が込められていたのか・・・ご存知の方はぜひぜひご教示ください。

2015/06/15

F.メンデルスゾーン-B/交響曲第5番《宗教改革》ニ長調 Op.107

メンデルスゾーンは5つの交響曲を残しています。
(そのうち第2番は交響曲の名前を持つカンタータなので、実質は4曲と言えます。)
人気があるのは第3番《スコットランド》と第4番《イタリア》ですが、この第5番もなかなか根強い人気が(アマチュア演奏家には)あるようです。

第5番と最後の番号が振られていますが、交響曲では2番目と若い時代に作曲されました。
生前には何度か改訂されたようで、例えばベーレンライター版では第3楽章にはレチタティーボが含まれるていたりします。

編成上はメンデルスゾーンでは珍しくトロンボーンを含み、さらにコントラファゴットとセルパンで低音を強化しています。
セルパンはチューバが発明される前に用いられていた低音を担う楽器で、蛇のような不思議な形をした楽器です(「サーペント(蛇)」と語源が同じです)。

「宗教改革」のタイトル通り、1517年にマルティン・ルターにより始められた宗教改革をテーマとしています。ユダヤ人であるメンデルスゾーン一家は宗教的な迫害を逃れるために改宗をしたと伝えられますが、その宗教改革の300年の記念年にあわせて作曲されてました。
不安や争いを暗示するような第1楽章、平和だった頃を懐かしむような第2楽章から一転して深い悲しみをこらえるような第3楽章、そして絶望に沈む世界に光が差し込むように始まり、歓喜のうちに集結する第4楽章と、非常にドラマティックな曲に仕上がっています。

第4楽章、フルートのソロから始まるメロディーはルター自身が作曲した賛美歌「神はわがやぐら」を引用しています。
バッハやワーグナーも引用しており、ルター派では重要な賛美歌なのだそうです。

J.S.バッハ/『われらが神は堅き砦』BWV80 より

同じくバッハ/コラールBWV302


R.ワーグナー/皇帝マーチ


2015/02/15

G.U.フォーレ/パヴァーヌ 作品50

読み返してみると、フォーレの曲紹介は3回目でした。
そろそろネタも尽きるかと思いましたが改めてフォーレの魅力を書きなぐってみたいと思います。

フォーレと聞いて思い浮かべることはなんでしょうか。
ラヴェルの師であり、ドビュッシーがよく批判していた
オルガン奏者でもあった。
実は女性関係は派手だった。
「レクイエム」が人気。
などなど。

作品は幅広く、交響曲こそありませんが室内楽や歌曲、それから劇音楽、歌劇で作品を残しています。個人的に好きなのはヴァイオリンソナタ第2番、ピアノ五重奏曲第1番、歌曲では「月の光」などでしょうか。

この「パヴァーヌ」は合唱入りでも演奏されることがあり、劇音楽「マスクとベルガマスク」 の終曲でもありますが、もともとは独立した曲です(つまり使い回しをされています)。
パヴァーヌは古い時代の踊り(つまりメヌエットとかガボットなどと同じようなもの)で、フランスだけではなくスペインやイングランドの宮廷でも踊られていたようです。
ステップは割と即興なもので、教会のウェディングで新婦が入場する時の「ためらいの歩み」がパヴァーヌのステップの名残とか。

フォーレの作風は「美」でしょうか。
「アール・ヌーヴォーの音楽」と位置づけられることもありますが、その美しさはどこか退廃的、世紀末の音楽と感じています。
室内楽ではアルペジオ(分散和音)が多用されピアニストを泣かせますが、「なんかうにゃうにゃしていて分かりにくいんだよね」と周囲から聞こえてくる評価が意味するところはその分かりにくさにある気がします。

「美しい花」という話があります。
花を「美しい」と感じるのは人間の心です。
でも人が美しいと感じなくても花はそこに存在しています。

モーツァルトであれば「花とそれを巡る人たちのドタバタ劇」をオペラにし、ベートーヴェンは「花をテーマとする闘争と勝利」(どんな展開だ?)、ブラームスは「花の動機展開」と各作曲家がやりそうなことを妄想してみますが、フォーレの音楽は「花を美しく描く」ことではないでしょうか。

花の美しさを描くではなく、花は美しいでもなく、というのがポイントです。
花を見かけた時にただ「美しい」と感じる、あるいは美味しいものを食べた時に「美味しい」と感じられるのか、フォーレの音楽はそんな日々忘れがちな素直な感覚に訴えかけてくるところがたまらないのですがいかがでしょうか?

参考
橋本治「小林秀雄の恵み」(4)《美しい「花」がある。「花」の美しさといふ様なものはない。》

ヴァイオリンソナタ第2番

ピアノ五重奏曲第1番

「月の光」

2015/02/14

L.v.B.室内管弦楽団 室内楽演奏会vol.4

2015年8月2日(日) ティアラ江東 小ホール
13:00 開場 13:30 開演
入場無料
 
曲目:
 L.v.ベートーヴェン / 管楽六重奏曲 変ホ長調 Op.71
 J.ブラームス / 弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 Op.18
 W.A.モーツァルト / ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478
 L.テュイレ / ピアノと木管五重奏のための六重奏曲 変ロ長調 Op.6


管楽・弦楽のアンサンブルで選曲をした今回の室内楽演奏会も魅力的な作品が集まりました。

前半は時折モーツァルトを感じさせるベートーヴェン初期の管楽六重奏曲に始まり、ブラームスの名曲、弦楽六重奏曲第1番。
そして後半は初の試みのピアノを含むアンサンブルです。
モーツァルトは数少ない短調の作品、そしてテュイレはリヒャルト・シュトラウスの親友であるフランス系ドイツ人で、親友とは真逆の保守的・古典的な作品を残しています。

あまり演奏される機会のない作品ですのでお聴き逃しなく!

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会場アクセス:
 地下鉄 都営新宿線・東京メトロ半蔵門線 「住吉」駅下車 A4出口より徒歩4分


2015/02/03

L.v.ベートーヴェン/序曲《コリオラン》作品62

古代ローマの英雄コリオランを題名に持つこの曲は、ベートーヴェンが好きそうな英雄と、献身的な妻、そして悲劇的な結末を持つ曲です。
序曲では「エグモント」「レオノーレ」第3番と 並んで人気のある曲ではないでしょうか。

作曲されたのは1807年、交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番などが作曲されました。
室内楽では弦楽四重奏曲の「ラズモフスキーセット」がその前年となります。
翌年には「運命」「田園」というベートーヴェンのもっとも充実した作品が生まれる時期で、特に「運命」とは同じ調性(ハ短調)やAllegro con brioの指示などが共通しています。


さてこの「コリオラン」ですが題材となった戯曲のストーリーはあまり資料もありませんでしたが、シェイクスピアの戯曲「コリオレイナス」が同じ題材だそうです。
シェイクスピア晩年の作品であまり上演される機会はないようですが、2011年に「英雄の証明」としてイギリスで映画されています(原題は"Coriolanus")。

舞台はローマ最後の王が追放され共和制となった頃、ということなので紀元前5世紀頃。
ローマの将軍であったマーシアスは隣国のヴォルサイとの戦い中、「コリオライ」の街を巡る戦いで功績をあげ「コリオレイナス」の二つ名を得ます。
しかしその後の執政官選挙で敗れるローマを追放され、かつての仇敵ヴォルサイへと逃れ、逆にローマに攻め上ってくることになります。

これを母ヴォラムニアと妻ヴァージリアが説得したことでローマと和平を結び凱旋しますが、最後はマーシアスの活躍をねたむヴォルサイ人の将軍一派により暗殺されてしまいます。

戦場の英雄であるマーシアスは人間としては傲慢で、古代ローマやギリシャの英雄のような強烈な魅力は残念ながらないようです。
肉親には強烈な愛情を持ちつつも、貴族vs共和派という対立に巻き込まれ、逃れた先でも英雄視されながらも妬まれ・・・と、はて、ベートーヴェンはなぜこの戯曲を選んだのかと思いました。

「コリオレイナス」の解説をもう少し読み込んでみると、戦場の英雄であるマーシアスが一歩間違えたら独裁者になっていたところを、ローマ市民が拒否した、いわば英雄vs市民という構図であるようです。

なるほど、それであればナポレオンの戴冠に腹を立てたベートーヴェンの好みでしょうか?

参考

コリオレイナス:シェイクスピア最後の悲劇
http://shakespeare.hix05.com/tragedies3/corialanus00.index.html
「コリオレイナス」
http://www.geocities.jp/todok_tosen/shake/cor.html
映画「英雄の証明」


2015/01/28

広井隆(指揮)

東京藝術大学指揮科卒業。
在学時より、二期会オペラの指揮者として研鑽を積み、 1975年、東京室内歌劇場公演でブリテンの教会オペラ「カリューリバー」を指揮してオペラデビュー。以後、二期会、日本オペラ協会の指揮者として古典から現代邦人に至る数多くの作品を手がける
 また東京交響楽団をはじめ、多くの管弦楽団の指揮者として、幅広く意欲的な活動を続けている。
1985年、社会文化協会の派遣により訪中。日本伝統音楽訪華使節団指揮者として、北京、西安にて公演し好評を得る。 三石精一、金子登、エルヴィン=ボルン、渡邊暁雄、山田一雄氏に師事。
1974年安宅賞受賞。日本指揮者協会会員。日本演奏家連盟会員。
2011年夏、韓国で開催されたアジア知的障害会議に於いて若竹ミュージカルの活動が認められ、 同連盟よりStar Raft Award(星槎賞)を贈られる。

2015/01/26

L.v.B.室内管弦楽団第34回演奏会

L.v.B.室内管弦楽団第34回演奏会

2015年6月21日(日) ルーテル市ヶ谷ホール
18:00 開場 18:30 開演

指揮:
 苫米地 英一

独奏:
 大波 陽平

曲目:
 L.v.ベートーヴェン/バレエ音楽《プロメテウスの創造物》Op.43より序曲
 R.G.シュトラウス/ホルン協奏曲第1番 Op.11
 G.マルトゥッチ/夜想曲 Op.70 Nr.1
 F.メンデルスゾーン-B/交響曲第5番《宗教改革》ニ長調 Op.107

入場料:
 全席自由1,000円(前売800円)
 →チケットはイープラスにて取り扱い

LvBでは初の会場となるルーテル市ヶ谷です。
その名の通りメンデルスゾーンの属していたルーテル派の教会になります。

今回は2回目の演奏となる《宗教改革》をメインに、若きリヒャルト・シュトラウスの作品であるホルン協奏曲、ベートーヴェンの数少ないバレエ音楽であるプロメテウスの序曲、そして最近名前が知られて来たマルトゥッチを演奏します。

マルトゥッチはメジャーな作品こそないものの、レスピーギの師でありまたワーグナーの作品のイタリア初演に尽力した人物として知られるイタリアの作曲家です。
歌劇は作曲していませんが交響曲やピアノ協奏曲が残されており、かのトスカーニがよく作品を取り上げていました。


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会場アクセス:
 JR総武線  地上出口 徒歩7分
 都営地下鉄  新宿線  A1 出口 徒歩7分
 東京メトロ  有楽町線   5,6番出口 徒歩2分
 東京メトロ  南北線   5,6番出口 徒歩2分

2015/01/11

F.メンデルスゾーン-B/弦楽四重奏曲第6番 ヘ短調 作品80

メンデルスゾーン(1809 – 1847)はドイツに生まれた作曲家・指揮者であり、結婚行進曲で有名な「真夏の夜の夢」、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第4番「イタリア」などの作品が知られています。幼少期からその音楽の才能を発揮しており、9歳で演奏会に出演、12歳で「弦楽のための交響曲」を作曲しているなどの記録からも、神童として知られていたことが見て取れます。メンデルスゾーンは約38年の生涯の中で、番号付きの弦楽四重奏曲を6曲作曲しています。その中でも最後、晩年に作曲された作品が、本日演奏する弦楽四重奏曲第6番です。

この曲は作曲の約2か月前、心の支えでもあった姉ファニーの訃報に接し、悲しみにくれながら作曲されたと言われています。こういった背景があったためか、メンデルスゾーンの作品としては異色の、激しく悲痛な音楽となったと考えられています。

第1楽章は冒頭から不安と焦燥を表す第1主題から始まり、悲劇的な叫びともいえる旋律がヴァイオリンにより演奏され、緊張感を保ったまま進んでいきます。第2楽章は暗いスケルツォであり、中間部ではヴィオラとチェロにより不気味な音型が奏されます。第3楽章は本作品で唯一の長調の楽章で、懐かしさと切なさが感じられます。第4楽章はソナタ形式で書かれており、冒頭ではチェロの伴奏の上で主題が提示されて始まります。曲を通じてこの主題が繰り返され、コーダではヴァイオリンによる3連符で装飾されながら、激しい曲調のまま全曲を結びます。

2015/01/08

モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581


この曲は、モーツァルトの親友のクラリネット奏者で当代随一の名手であったアントン・シュタットラーのために作曲されました。モーツァルトの死の2年前の1789年に作曲されており、円熟期の作品といえますが、最晩年のクラリネット協奏曲とは異なり、死の影を感じさせるような独特の雰囲気はあまりなく、優美で明るく、甘味な作品となっています。

 クラリネットは音域により音色が異なる特徴をもっていて、大きく分けると低音部(シャリュモー音域)はややくすんだ深みと翳りのある音、高音部(クラリオン音域)は艶やかで明るい音となっています。この曲では両者を効果的に対比させ、クラリネットの音色を聴く人に深く印象づけています。特に低音域はシュタットラーが特に好み、わざわざ通常よりも低い音の出る楽器を特注して使うほどだったらしく、モーツァルトはこの曲で低音部の深々とした響きを随所にとりいれています。


第1楽章はソナタ形式、第2楽章は3部形式で、甘味な旋律が印象的、3楽章はメヌエットと2つのトリオからなり、4楽章はアレグレットの快活な主題が様々な表情に変奏されます。

2015/01/07

J.イベール/木管五重奏のための3つの小品

イベールはフランス、パリ生まれの作曲家ですが、実は日本との関わりがあります。
1940年に日本からの依頼でフ ランス政府を通じ、日本の皇紀2600年奉祝曲「祝典序曲」を作曲しています。

今回演奏する「木管5重奏のための3つの小品」はその10年前、1930年に作曲されました。
この曲は、中学校の吹奏楽部から社会人まで幅広く人気のある 曲で、演奏頻度も高い曲の一つです。この人気の理由は、オシャレな曲風にあると言えます。

1曲目の始まりは、記譜では2/4拍子ですが、まるで3拍子であるかのように聞こえる工夫がされています。ぜひ、曲の始まりに注意して聞いてみてくださ い。その後は、このオシャレな曲風を演出するべく、各楽器の魅力が順番に現れ、とても華やかな曲になっています。最後まで遊び心の溢れた、聞いている人 も、演奏している人も大変楽しめる作品です。

2曲目は、フルートとクラリネットの美しい二重奏から始まります。3曲の中で最も短い曲ですが、後半からオーボエ・ホルン・ファゴットが加わり、曲の世界 が広がっていきます。そうかと思うと、そのまま静かに終わってしまうこの曲の雰囲気を気に入る人は多いのではないでしょうか?

3曲目は3拍子と2拍子を繰り返したり、テンポに変化があったりと、聞いているだけでもすごく楽しめる曲です。それだけに、演奏者同士のタイミングの合わせ 方にも、ぜひ注目してみてください。

J.M.ラヴェル(M.ジョーンズ編)/『クープランの墓』

L.v.Bでは2013年3月の第28回演奏会や、遡っては2002年にもラヴェル本人の編曲による管弦楽版をお届けしていますが、今回は木管五重奏…広く演奏されているM.ジョーンズの手による編曲版です。

  ラヴェルが第一次世界大戦後1917年に完成させたピアノ独奏曲は「Prelude」プレリュード、「Fugue」フーガ、「Forlane」フォルラー ヌ、「Rigaudon」リゴドン、「Menuet」ミニュイ、「Toccata」トッカータ、の6曲から成る組曲。これを1919年に、友人であり 第 6曲「Toccata」を捧げた音楽学者J.マルリアーヴ大尉の寡婦…戦争未亡人となっていた女流ピアニスト、マルグリット・ロンにより初演しています。 それを同年にオーケストレーションしたのが「Prelude」「Forlane」「Menuet」「Rigaudon」の4曲。ジョーンズ編の五重奏で は、管弦楽版から1曲チェンジがあり「Forlane」に代わって「Fugue」が入った4曲となっています。

  この曲は、戦争レクイエムの側面があります。組曲の1曲ごと全てに、戦争で亡くなった友人の名前と階級を添えて捧げています。非常に愛国心の強かったラ ヴェルは、開戦前に書き始めた「18世紀フランス音楽を讃える舞曲集」の筆を中途で物資輸送車の運転手として従軍しました。そして終戦時、多数の友人が戦 死し最愛の母も病没していましたが、自分は生き残ってしまった…。ノルマンディーに引きこもって再びピアノに向かったとき、作曲開始当初の気分からは様 変わりした形での意味合いをも持つ組曲が仕上がりました。

 優しく、そこはかとなく哀しい舞曲集に密やかに籠められた、悼み。と共に『活き活きと(vif)』という指定が何度も譜面に出てきますが「今を生きなくては、前を向いて」という吹っ切る覚悟のようなものも感じられます。

  ピアノ版もラヴェル最後の独奏曲として難易度がとても高いと言われますが、管弦楽版も「オーボエ吹きの墓」の揶揄のみならず木管泣かせの難曲です。それを更に5本に凝縮するわけで、言わずもがなの難易度ではありますが…各曲の持つ雰囲気、ストーリーや色が、少しでも聴く方に伝わり思い浮かぶような演奏が出 来たら幸いです。