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2015/02/03

L.v.ベートーヴェン/序曲《コリオラン》作品62

古代ローマの英雄コリオランを題名に持つこの曲は、ベートーヴェンが好きそうな英雄と、献身的な妻、そして悲劇的な結末を持つ曲です。
序曲では「エグモント」「レオノーレ」第3番と 並んで人気のある曲ではないでしょうか。

作曲されたのは1807年、交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番などが作曲されました。
室内楽では弦楽四重奏曲の「ラズモフスキーセット」がその前年となります。
翌年には「運命」「田園」というベートーヴェンのもっとも充実した作品が生まれる時期で、特に「運命」とは同じ調性(ハ短調)やAllegro con brioの指示などが共通しています。


さてこの「コリオラン」ですが題材となった戯曲のストーリーはあまり資料もありませんでしたが、シェイクスピアの戯曲「コリオレイナス」が同じ題材だそうです。
シェイクスピア晩年の作品であまり上演される機会はないようですが、2011年に「英雄の証明」としてイギリスで映画されています(原題は"Coriolanus")。

舞台はローマ最後の王が追放され共和制となった頃、ということなので紀元前5世紀頃。
ローマの将軍であったマーシアスは隣国のヴォルサイとの戦い中、「コリオライ」の街を巡る戦いで功績をあげ「コリオレイナス」の二つ名を得ます。
しかしその後の執政官選挙で敗れるローマを追放され、かつての仇敵ヴォルサイへと逃れ、逆にローマに攻め上ってくることになります。

これを母ヴォラムニアと妻ヴァージリアが説得したことでローマと和平を結び凱旋しますが、最後はマーシアスの活躍をねたむヴォルサイ人の将軍一派により暗殺されてしまいます。

戦場の英雄であるマーシアスは人間としては傲慢で、古代ローマやギリシャの英雄のような強烈な魅力は残念ながらないようです。
肉親には強烈な愛情を持ちつつも、貴族vs共和派という対立に巻き込まれ、逃れた先でも英雄視されながらも妬まれ・・・と、はて、ベートーヴェンはなぜこの戯曲を選んだのかと思いました。

「コリオレイナス」の解説をもう少し読み込んでみると、戦場の英雄であるマーシアスが一歩間違えたら独裁者になっていたところを、ローマ市民が拒否した、いわば英雄vs市民という構図であるようです。

なるほど、それであればナポレオンの戴冠に腹を立てたベートーヴェンの好みでしょうか?

参考

コリオレイナス:シェイクスピア最後の悲劇
http://shakespeare.hix05.com/tragedies3/corialanus00.index.html
「コリオレイナス」
http://www.geocities.jp/todok_tosen/shake/cor.html
映画「英雄の証明」