室内楽の作品を多く残しているブラームスは、ピアノと弦楽器のための作品として三重奏曲と四重奏曲を3つずつ、そして五重奏曲を残している。どの作品も演奏機会がそれなりにあるが、この四重奏曲第1番はシェーンベルクによる大管弦楽版もありよく知られている作品でもある。
室内楽曲としてピアノ四重奏曲は第二バイオリンを欠くことで当然ながら内声部の厚みが欠けているのである。例えば五重奏曲ではブラームス、シューマン、ドヴォルザーク、フォーレといった作品が人気だがどれも「弦楽四重奏+ピアノ」のしての重厚さがある。一方で四重奏曲は”ピアノと弦楽アンサンブル”としての密度が魅力的だ。
どちらが優れているものでもないが、ブラームスは弦楽のためのアンサンブル曲も三重奏・四重奏・五重奏・六重奏とあり聴き分けも楽しめる作曲家だろう。
四重奏曲第1番が作曲されたのは1855年から1861年にかけて、22歳から28歳という時期は完成まで19年かけた交響曲第1番を着手し、自殺未遂をしたシューマンの妻クララに想いを寄せ、アガーテとの婚約話があり、作曲後にはウィーンに移り住む、そんな頃だ。
初期の作品らしく気難しさよりは叙情的といういか、感傷的な場面の多い曲で、構造的な複雑さはそれほど多くはない(アマチュア音楽家を悩ますシンコペーションとか・・・)。
第1楽章はピアノに始まる「レシファソ」の4音による動機を展開させるブラームスらしいねちっこさを持つ曲だ。シェーンベルクはこの主題がとても気に入り、のちに管弦楽版への編曲を行ったとか。
続く第2楽章で「間奏曲」と題されハ短調のもの哀しい旋律を奏で、3楽章に配置された緩徐楽章は牧歌的な雰囲気を歌い上げる。
そして終楽章はジプシー風の音楽とロンド。ト短調の属性はハンガリー舞曲の第1番や第5番でも使われており、馴染みのある曲調だ。クララ・シューマンによる初演でも人気があったと伝えられている。
この曲の演奏会
・室内楽演奏会vol.9