ブラームス クラリネット三重奏曲イ短調 Op.114
I. Allegro
II. Adagio
III. Andantino grazioso
IV. Allegro
この曲を取り上げる時にまず言われることは、この作品が晩年の作であるというものであろう。作曲されたのはブラームスが逝去する6年前であり、そして、本作がOp.114であることに対し、最後につけられた番号がOp.122であることからも後期の作品ということがわかる。
本作とクラリネット五重奏ロ短調Op.115の2曲は、当時創作意欲の衰えを感じていたブラームスが、リヒャルト・ミュールフェルトの演奏に触発されて書いたといわれている。さらに、2つのクラリネットトリオOp.120を書き上げており、彼が当時クラリネットという楽器を非常に気に入っていたことが推察される。それらのいずれも、彼の晩年の枯れたとでも表現されるような心情を表現しているような名作である。
編成についてみてみると、クラリネット、チェロ、ピアノという珍しい編成である。音色から見ると、クラリネットとチェロのどちらも人間味の出やすい楽器であり、この曲の性質をある程度表しているといえよう。
さて、この曲の特徴について挙げられることに目を移すと、随所にちりばめられた拍のずれが目に入ってくる。
ブラームス特有の各声部が微妙にずれているということはもちろんだが、ブラームスの作品によく登場する、重みをもったアウフタクトの取り方がプレイヤーを迷子にさせてくるのだ。
交響曲第二番の二楽章や交響曲第三番の一楽章にも現れるこの音形は、しかし、彼の表現したい音楽を楽譜として形にするためには必要なものであったのだろう。だとすると、普通に聴いていて楽譜の拍と感じる拍がずれてしまうというのは、実は演奏手法が違っているという可能性もないだろうか。
今回は正しい拍が感じられる音楽を表現しようと試みようと思う。
果たして、今回の演奏でその表現ができているのか、是非演奏後に楽曲の譜面を見て答え合わせをしてみて頂きたいものである。
この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.8