ウィーンに外交官として駐在していたラズモフスキー伯爵は芸術のパトロンとしても知られ、自身もアマチュアのバイオリン奏者であったと伝えられている。そのラズモフスキーの依頼で作曲されたのがベートーヴェン中期の作品である、3曲の弦楽四重奏曲でラズモフスキー四重奏曲やラズモフスキー・セットなどと呼ばれている。
1曲目と2曲目にはラズモフスキーの故郷ロシア(正確にはウクライナ)の主題が用いられている。第7番では4楽章、第8番では3楽章、特に第8番で用いられた旋律はのちにロシアの作曲家達に逆輸入されている 。
ラズモフスキーセットの集大成である第9番は最も充実した作品であり・・・そしてそのためか当時のウィーンの聴衆には受け入れられなかったとも伝えられているが、曲の構成、充実度はこの翌年に作曲された交響曲第5番・第6番を期待させる。
ちなみに交響曲第5番・第6番が献呈されたのはラズモフスキーの友人で同じくベートーヴェンのパトロンであるロプコヴィッツ伯爵。前回演奏した弦楽四重奏第4番も献呈されている。
第1楽章は短調の暗く物憂げな序奏に始まり、しかしすぐハ長調の明るい曲調へと転じる。この第1主題がその後の楽章でも用いられるが、第1バイオリンとその他の伴奏パートではなく、各パートに均等・交互に出番がまわってくるのが特徴と言える。
第2楽章はチェロのピチカートを伴奏に、憂鬱なメロディーが淡々と歌われる。
そして古典に回帰するような第3楽章(これはベートーヴェンが好んで使う)のコーダは終楽章への橋渡しを担い、アタッカ(楽章間を空けずに続けて演奏する、これまたベートーヴェンの好物)で終楽章へと突入する。
終楽章はビオラから始まるフーガ風の楽章で、ここでも各パートが順に主役を担っていく。全休止からの再現部は歓喜に満ちたフィナーレまでエネルギッシュに突き進んでいく。
作曲され200年が経過した今でも決して古さを感じず、新鮮味の溢れるこの曲はベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも人気のある作品の一つでしょう。
・この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7