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2014/10/13

読書感想文:「エリック・サティ」(兼、「組み立てられた3つの小品」の紹介)

プログラムに取り上げておきながら・・・メンバーからも「ある意味難解」と評されるサティです。確かになかなか出会うことのない価値観?があります。資料もなく曲紹介に非常に困るのですが、図書館で1冊の本を借りてみました。

ジャン・コクトー「エリック・サティ」(深夜叢書)

100ページもない本ですが、大変興味深い内容でした。

著者はサティの信奉者とも言える支持者のため、偏りはあるかもしれません。
ただ、非常に納得するものがありました。
我々はサティの「簡潔さ」の教訓が必要であった。三十本の幅は車輪を形造る。しかし車輪をして車輪の用をなさしめるものは 中軸の中の空洞な部分である。(中略)かように「存在するもの」は一つの利益ではあるけれど、効用は常に「存在しないもの」によって作られる。ドビュッ シィの音楽は完成した形を我々に示す。それは在るところの音楽である。これに反して、サティの音楽は、全て存在しないところのものによって、我々に有効な 音楽である。サティの音楽は表皮を持たない。人々は、その中味に彼の思想を見出す。
ちょっとほめすぎな気はしますね。


今回取り上げる「3つの小品」は、各曲には副題が付けられています。
組み立てられた3つの小品
1.パンタグリュエルの幼年時代(夢) "De l'enfance de Pantagruel(Reverie)"
2.桃源郷の行進曲(歩き方) "Marche de cocagne(Demarche)"
3.ガルガンチュワの遊び(ポルカ調) "Jeux de Gargantua(Coin de Polka)"
「ガルガンチュワとパンタグリュエル」という小説があるので、その登場人物のようですが、この本はなかなかの長編です。

これを3分ほどの作品に含めるのには無理があり、(サティの簡潔さと対比される)ワーグナーであれば序曲だけで15分、演奏に1日を費やす作品に仕立て上げるかもしれません。

では、なぜサティは僅か3分で3曲したのか?

それが「存在しないもの」を作曲したということなのでしょうが・・・作品を理解した上で、必要なエッセンスのみを表現したのではないかと思っています。

先ほどの車輪の例えであれば車輪を表現するのに形を一言一句説明するのではなく、記号や色、擬音で伝えようとしているのです。当然人によっては馬車・荷車・自転車など様々な理解をするでしょうし、そもそも車輪を知らない人にとっては理解ができないものでしょう。

でもそれはまったく気にせずに、サティが考える車輪は「こういうもの」というあまりにも簡潔な説明?をしているだけ。分かる人は分かるし、分からない人には無理に説明をしない。なかなか人を小馬鹿にしている皮肉屋です。

ということは演奏するにも、曲を聴くにもかなりの想像力を働かせないといけないので、なかなかハードルが高い曲なのです。オペラのような明確な物語 も、ドビュッシーのような構造、ベートヴェンの主題展開もなく、頼れるのは自分の経験と感性と想像力。なるほど、これはメンバーから「難しい」と言われる のも無理はありません。

でも、譜面に書かれたことの裏とか奥とか行間を読めるようになると、今まで演奏してきた曲であっても別の理解ができるようになるはずなので、この3分間に頭を悩ませてみたいと思います。

さて、サティの作品で「問題作」に2つあるようです(たった2つなのか・・・なのですが)

一つは「家具の音楽」。僅か数小節の楽譜を無限に(=気が済むまで)繰り返すというこの曲。サロンでのBGMとして作曲されたようですが、
同じ旋律が何度も繰り返される→耳が曲を覚えてしまう→(周囲の環境に溶け込む)→まるでそこにある家具のように違和感ないものとして認識される
という実験音楽です。以前テレビで「史上最も長い曲」としてサティのピアノ曲「ヴェクサシオン」が取り上げられていましたが、同じ系統の音楽です。

つまり、演奏会などで「聴く」という行為ではなく、そこに「在る」だけの音楽で、長年酒場のピアニストとして活躍(?)したサティらしい1曲です。

こちらはロビーコンサートで演奏予定ですが、くれぐれも立ち止まって聴き入ってはいけない曲ということですのでご注意ください。


もう1曲は最後の作品と言われるバレエ「本日休演」と幕間に流された映画「幕間」の音楽です(当時のフランスでは幕間に映画を流していたようです)。ふざけたタイトルのバレエですが、初演は本当に休演になったようです。

これがまた問題作で・・・バレエは鏡を並べた舞台で踊り手がアドリブで踊るというもの。映画は大砲とか棺桶とかが脈絡なく映し出されます。真面目に観ると頭が痛くなってきます。夢に出てきてうなされそうです・・・。あ、サティ自身も出演しています。

でも音楽は素晴らしいです。たぶんバレエも映画も、何の意味もないです。評論家や実際に観た人が「あの意図は・・・」「あの演出は・・・」と語るか もしれませんが、それはきっとサティの罠です。意味のないものに意味を見出す行為自体をきっと皮肉っています。何も考えずに観て、その時間をそのまま受け 入れるのが正解かな、と思っています。

美しい花を前にして「美しい」と感じる、おいしいものを食べたら「おいしい」と感じる、そんなピュアな感受性の大切さを思いかえさせてくれる・・・とは言い過ぎですね、きっと。

でも、それがコクトーが評した簡潔さであり、サティの思想なのではないかと思います。

注:映像も問題作ですので、あまりまじめに観ないことを推奨します・・・
バレエ「本日休演」 第1幕

映画「幕間」 ※大砲のシーンの左側の男性がサティです

バレエ「本日休演」 第2幕

さて、この内容だけでは変人扱いされてしまいそうです。 サティで有名な曲の一つはやはりこれでしょう。
「ジュ・トゥ・ヴ」


こちらはがらりと変わってポピュラーな人気曲ですね。