ベートーヴェンは、全16曲の弦楽四重奏曲を、前期6曲・中期5曲・後期5曲、とその生涯にわたって書き続けました。この4番の含まれる前期作品は、まだハイドンやモーツァルトの影響が残り、難曲ぞろいの中後期作品に比べてアマチュアでも比較的取り組みやすいと言われています。「第4番」とはなっていますが実際に作曲されたのは6番目、前期6曲の中で唯一の短調からは、徐々に耳が聞こえづらくなっていくベートーヴェンの苦悩が伝わってきます。交響曲第5番「運命」やピアノソナタ8番「悲壮」などの名曲と同じハ短調が使われているところにも特別な思いが込められているように感じられます。
冒頭は第一ヴァイオリンの力強く悲しい旋律から始まります。“旋律”対“伴奏”の第一主題から、お互いが心地よくなじむ第二主題へとつながっていきます。展開部では激しさを増し、悲壮感をより一層強めながら一楽章が進行します。
第二ヴァイオリンから始まる二楽章では、一楽章とは対照的に、楽章を通じて各楽器が対等にかわるがわる顔をのぞかせます。全体を通して軽やかな雰囲気ではありますが、その中にも緊張感や優しさ悲しみなどいろいろな音のバリエーションが表現されています。
三楽章はスフォルツァンドが印象的なドラマティックな出だしから始まります。4つの楽器が重厚に入りまじる大海原のようなメヌエット、3連符の刻みの中から優しいメロディが表れる穏やかな川のようなトリオ、対比的に描かれる各部分はベートーヴェンの迷いが表れているのでしょうか。
四楽章では一楽章から続く悲壮感が再び強く呼び起こされます。第一主題を何度も繰り返して徐々に盛り上がりながらたどり着いたコーダでは、最後に少し明るさをのぞかせしかしユニゾンで力強く終曲します。悲壮感やもの悲しさが随所に感じられる苦難の曲ではありつつも、様々な迷いが吹っ切れた、そう感じさせるような終わりを迎えます。