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2016/07/27

W.A.モーツァルト / 五つのディヴェルティメント変ロ長調 K.439b(Anh.229)より第1番

クラリネット奏者にとって、モーツァルトは特別な作曲家です。
当時、クラリネットはまだ歴史の浅い楽器であり、オーケストラの1パートを担うことは稀でした。そこにスポットライトを当ててくれたのがモーツァルトです。彼の親友で、当代随一のクラリネット(およびバセットホルン)奏者であったアントン・シュタードラーのために多くの作品を残しました。

「五つのディヴェルティメント」は、モーツァルトがバセットホルンに強い関心を寄せていたことを窺わせる作品の一つで、元来3本のバセットホルンで演奏するために書かれた小品集です。バセットホルンはクラリネットと同族楽器で、一般的なクラリネットに比べ低音域が拡張され、鼻にかかった独特な音色をしています。残念ながら、モーツァルトほどにバセットホルンを好んで用いた作曲家はほとんど見られませんが、この作品自体は初版の楽譜が出版された直後から人気を博していたようで、様々な楽器編成にアレンジされています。

ディヴェルティメント第1~第5番までの各作品はそれぞれに5曲の小品を有する構成となっており、今回はその中から第1番を、2本のクラリネットと1本のファゴットの編成で演奏します。

第1曲 Allegro ソナタ形式。快活で爽やかな曲想
第2曲 Menuetto : Allegretto ハイドンを思わせる、ゆったりとしたメヌエット
第3曲 Adagio 二部形式。前半は横の流れ、後半は縦の流れを感じさせる緩徐楽章
第4曲 Menuetto 軽快で、どこかコミカルな雰囲気のメヌエット
第5曲 Rondo : Allegro ロンド形式。主題が賑やかさを増しつつ変奏され、明快なコーダを迎えます

2016/07/24

F.ドップラー / 「アンダンテとロンド」ハ長調Op.25

フランツ・ドップラー(1821-1883)はハンガリーの作曲家であり、「ハンガリー田園幻想曲」をはじめフルート曲を多く残した作曲家として知られています。他にもオペラやバレエなどの舞台音楽も残しており、またリストの「ハンガリー狂詩曲」のいくつかを編曲したことでも知られています。

作曲家だけでなくフルートの名手でもあった彼は、18歳でブダペスト歌劇場の首席フルート奏者に就任し、その後はウィーン宮廷歌劇場の首席フルート奏者から首席指揮者の地位へと昇り詰めました。そして、1864年から1867年までウィーン音楽院のフルート科教授も務めています。

4歳年下の弟カールとの演奏旅行のために、1853年から約10年間で、超絶技巧を用いたフルート2本とオーケストラ(あるいはピアノ)の曲を10数曲書き上げ、彼らの非常に息の合った演奏は「フルートのヴィルトゥオーソ兄弟」としてヨーロッパ中を席巻しました。
「アンダンテとロンド」は兄弟の演奏旅行中に作曲され、その作品群の中でも代表作として知られています。

アンダンテでは冒頭から、豊富な和声で支えられた情感たっぷりのフレーズがドラマティックな場面も交えつつ2本のフルートによって連携しつつ奏でられます。
ロンドはハンガリーのジプシーダンスにみられる躍動感あふれるリズムが特徴的で、1stと2ndが超絶技巧で応酬しながらも流麗華麗なアンサンブルで絶妙にシンクロし、聴く人だけでなく、演奏者をも魅了します。

J.パッヘルベル / 3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調 よりカノン

「かえるの歌が 聞こえてくるよ〜♪」の童謡、一度は歌ったことのある人は多いでしょう。
この同じメロディーが順番にでてくる曲を「カノン」と呼びますが、有名なのがこの「パッヘルベルのカノン」。

カノンと言えばパッヘルベル、パッヘルベルと言えばカノン、というぐらいに有名です。
「クラシックは寝てしまうので無理!」なんて人もどこかで聴いたことがあるはずで、華原朋美の「あなたがいれば」、山下達郎の「クリスマス・イヴ」などポップスにもアレンジされています。

バロックの音楽家パッヘルベルはドイツのニュルンベルクのワイン商の家に生まれ、のちウィーンにでてシュテファン大聖堂のオルガン奏者となります。シュテファン大聖堂は若き日のヨーゼフ&ミヒャエル・ハイドンの兄弟が聖歌隊に属し、モーツァルトが結婚式をあげた寺院でもあります。

現在ではほぼこの作品でのみ知られていますが、実はカノンはこの1曲しか残しておらず、また本来は「カノンとジーグ」でセットの曲です。
が、ジーグはあまりに有名なカノンと比べるとほぼ演奏機会がありません(どころかプログラムに曲名が書かれることもないような)。
今回も悩んだところでしたが・・・カノンのみで演奏いたします。

「どこかで聴いたクラシック」の代表作をお楽しみください!

2016/07/20

L.v.ベートーヴェン / 弦楽四重奏曲第4番ハ短調Op.18-4

ベートーヴェンは、全16曲の弦楽四重奏曲を、前期6曲・中期5曲・後期5曲、とその生涯にわたって書き続けました。この4番の含まれる前期作品は、まだハイドンやモーツァルトの影響が残り、難曲ぞろいの中後期作品に比べてアマチュアでも比較的取り組みやすいと言われています。「第4番」とはなっていますが実際に作曲されたのは6番目、前期6曲の中で唯一の短調からは、徐々に耳が聞こえづらくなっていくベートーヴェンの苦悩が伝わってきます。交響曲第5番「運命」やピアノソナタ8番「悲壮」などの名曲と同じハ短調が使われているところにも特別な思いが込められているように感じられます。
冒頭は第一ヴァイオリンの力強く悲しい旋律から始まります。“旋律”対“伴奏”の第一主題から、お互いが心地よくなじむ第二主題へとつながっていきます。展開部では激しさを増し、悲壮感をより一層強めながら一楽章が進行します。

第二ヴァイオリンから始まる二楽章では、一楽章とは対照的に、楽章を通じて各楽器が対等にかわるがわる顔をのぞかせます。全体を通して軽やかな雰囲気ではありますが、その中にも緊張感や優しさ悲しみなどいろいろな音のバリエーションが表現されています。

三楽章はスフォルツァンドが印象的なドラマティックな出だしから始まります。4つの楽器が重厚に入りまじる大海原のようなメヌエット、3連符の刻みの中から優しいメロディが表れる穏やかな川のようなトリオ、対比的に描かれる各部分はベートーヴェンの迷いが表れているのでしょうか。

四楽章では一楽章から続く悲壮感が再び強く呼び起こされます。第一主題を何度も繰り返して徐々に盛り上がりながらたどり着いたコーダでは、最後に少し明るさをのぞかせしかしユニゾンで力強く終曲します。悲壮感やもの悲しさが随所に感じられる苦難の曲ではありつつも、様々な迷いが吹っ切れた、そう感じさせるような終わりを迎えます。