2019/07/11

R.シューマン / 4本のホルンのためのコンチェルトシュテュック

音楽史上はロマン派前期にあたる1820年代〜1840年代は、産業革命の影響を受けて、楽器製造に対しても数々の技術上の革新が現れた時期でした。
中でも、ホルンやトランペットを始めとする金管楽器は、バルブ装置の発明により、いくつかの音しか出せない信号ラッパ(※1)の延長から、弦楽器や木管楽器と同じく自由に音階を奏でられる楽器へと進化を遂げ、作曲家の音のパレットは大きく広がりました。

(※1 バルブ装置のない金管楽器を自然(ナチュラル)管と言います。ベートーヴェンやモーツァルトの時代の作品はほぼ全て、自然ホルン(トランペット)を想定して書かれています。ちなみに、本日最後のプログラムのモーツァルトの交響曲第25番では、複数の管長の自然ホルンを組み合わせて、自由に音階を奏でられない楽器にメロディを演奏させようとした作曲家の工夫が楽譜に記されています。バルブホルンで演奏する現代のオーケストラでは、その技巧を直接耳にすることは困難で、ただホルンがぎこちなく聴こえてしまうだけかもしれません)

そうした金管楽器、特にホルンの変化に大きな関心を持った作曲家に、シューマンが挙げられます。彼の作曲した交響曲(※2)では、曲により、または楽章により、バルブホルンと従来の自然ホルンを組み合わせて使用することで、表現の広がりを企図していることが確認できます

(※2  第3番「ライン」など。これも現代のオーケストラでは ... 以下略)


シューマンは、黎明期のバルブホルンの為に、2つの独奏曲をプレゼントしました。
そのうちの1つが、「アダージョとアレグロ op.70」(チェロ等の独奏版でも有名)であり、もう1つが本日演奏する「4本のホルンと管弦楽のためのコンチェルトシュトゥック op.86」です。

本曲は、新しい楽器の可能性を前にした作曲家の興奮と想像力の高まりが楽器の、そして演奏者の限界を超えてしまったかのように、4本の独奏ホルンに大変難しいソロパートが与えられており、中でも1番ホルンは後年のR.シュトラウス(※3)やストラヴィンスキーもかくや、という高音域を「ほぼ休みなく」演奏しなくてはいけません。

(※3 本曲で数回登場する最高音のAの音は、R.シュトラウスの「家庭交響曲」での使用例がありますが、通常のオーケストラ曲ではまず使用されません)

アマチュアでの演奏も、そしてピアノ伴奏での演奏も珍しいのですが、素晴らしいピアノ奏者をお迎えしてお送りする本日の演奏、ピアノ独奏(※4)で聴きたかった、と思われないように、シューマンの独特の詩情と、時々現れる狂気と隣り合わせのような祝祭的な雰囲気をホルンのハーモニーで奏でたいと思います。どうかお楽しみください。

(※4ちなみに本曲には作曲家自身によるピアノ協奏曲版もあります)


この曲の演奏会