2017/11/06

F.ディーリアス/夜明け前の歌

1918年、フレデリック・ディーリアス56歳の時の作品で、まだこの頃は自力で歩き自分の目と手でスコアを書けましたが、この十年後には梅毒による全身麻痺と失明に見舞われ口述筆記で新曲を発表し続け、72歳まで生きました。

イギリスに生まれ、ドイツのライプツィヒ音楽院で音楽教育を受けたのちパリへ移り、64km離れたグレ=シェル=ロワン村の妻(画家)の持ち家に更に移って彼女と暮らし、そこで没しています。フォンテーヌブローの森との境にある自然豊かな住まい。「春初めてのカッコウを聞いて」「夏の庭で」「河の上の夏の夜」といった自然を題材にした作品の多い、旋律的で詩的、甘美で淡い…とも評される作風はここで熟されていったことが伺えます。

この曲はイギリスの詩人であるスウィンバーンの詩から霊感を得、日の出前のイギリスの田園風景を描いていると言われます。序奏は徐々に目覚める自然の仄かなざわめきを暗示し、短い中間部を挟んだ3部形式が鳥の音を伴って展開して日の出のクライマックスを迎えたのち、そんな感動など無かったかのような静かな日常風景の訪れで曲を閉じます。

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第40回演奏会

2017/08/13

L.v.B.室内管弦楽団 第40回演奏会

L.v.B.室内管弦楽団第40回演奏会

2017年11月19日(日) ルーテル市ヶ谷教会
17:30 開場 18:00 開演予定

指揮:
 廣井 隆

曲目:
 F.ディーリアス/夜明け前の歌
 W.A.モーツァルト/交響曲第41番 ハ長調 K.551《ジュピター》
 L.v.ベートーヴェン/交響曲第7番 イ長調 作品92

100人規模のオーケストラ・2000席のホールではなく、室内管弦楽団による小さな演奏会はいかがでしょうか。
会場はルーテル市ヶ谷教会、200席ほどの小さなホールに管弦楽を響かせます。

曲はベートーヴェンの作品でも人気を争う交響曲第7番。
ワーグナーが「舞踏の聖化」と称したこの曲は映画やドラマでも用いられ親しまれてきた作品です。
ローマ神話の最高神の名を冠したジュピター交響曲は天才作曲家の数々の名作の中でも最高峰の作品の一つです。モーツァルトがその最初の交響曲から愛するモティーフによる終楽章のフーガはまさに天に登るような至高の時間です。
前プロにはイギリスの作曲家ディーリアスの小品をお送りします。

入場料:
 全席自由1,000円(前売800円)
 前売りチケットはイープラスにて取り扱い→イープラスのサイトへ

お問い合わせ:
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会場アクセス:
 JR 総武線 市ヶ谷駅 地上出口 徒歩7分
 都営地下鉄 新宿線 市ヶ谷駅 A1出口 徒歩7分
 東京メトロ 有楽町線・南北線 市ヶ谷駅 5,6番出口 徒歩2分

※弦楽器のメンバーを募集しています→詳しくはこちら

2017/07/20

F.シューベルト / ピアノ三重奏曲 変ホ長調 《ノットゥルノ》 D. 897

シューベルトは晩年(と言っても僅か30歳)に3曲のピアノ三重奏曲を残している。
うち2曲(D.898,D.929)は演奏時間40分を超える大曲なのだが、このD.897は10分ほどの小品だ。おそらくは同時期に作曲されたD.898(シューベルトの死後に出版されたことから「遺作」とされることも)の1楽章として構想されたものではないか、とも言われている。

ノットゥルノは日本語で夜想曲と訳されるが、もっとも有名なのはショパンの作品9-2で、これは映画やTVCMでも使われるので聴いたことのある人も多い作品だろう。
「夜」を「想」うとの訳の通り楽しい夜の集いを思い返す、そんな意味が込められており、分散和音に乗せて穏やかなメロディーから始まり、やや盛り上がりを見せ、また穏やかに終わる、そんな作品が多いだろうか。

同じ意味にセレナーデ、「夜曲」と訳される曲がある。
 これはモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に代表されるがどちらかというと楽しい夜の集いになる。

誰が訳したかは分からないが、「夜想曲」とはなんと美しい言葉をあててくれたものである。

シューベルトの晩年の作品は美しいメロディ(しかしシューベルト自身は「美しい音楽に出会ったことがない」が口癖であった)に始まり、いつしか非日常的な孤独な世界に足を踏み入れるような特徴があると想う。
このノットゥルノもそうした1曲で これがシューベルトの魅力と感じるか、もしくはやるせなさを苦手とするかで好みは分かれるかもしれない。

演奏時間の長い作品が多いこともあり演奏者も苦手意識があるシューベルトだが、ぜひ再評価してほしい、そんな1曲である。

演奏会では19歳の時、いよいよ音楽に専念しようと決意を固める若きシューベルトの作品である交響曲第5番をあわせて演奏するのでその対比を感じていただければ幸いである。


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室内楽演奏会vol.8


2017/07/18

田中カレン / Silent Ocean(for Trumpet and Piano)

この作品はロサンゼルス在住の邦人作曲家によって2005年にトランぺッター神代修氏の嘱託により作曲され同年初演されました。

曲は3つの部分から構成されております。
I.Far away - gently 遠くへ、やさしく
II. Love Song - with affection 愛の歌 - 愛情とともに
III.Far away - 遠くへ、非常に軽く

お聞きいただいてどのような海の情景、色を連想されましたでしょうか。
今の季節ですと青春の頃、月明かりの下で散策した夏の海辺の想い出や夕暮れの海辺などなどいろいろ想いを巡らせて頂ければと存じます。

演奏者の思い描いた情景は沈黙の海というタイトルだけに秘密にしておきます。。

Trp 咲間


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/17

M.ブルッフ / ロマンス Op.85

「ヴァイオリンとヴィオラの違いは?」「ヴィオラの方が長く燃える」などという「ヴィオラジョーク」が語られていたのは昔の話。近年、ヴィオラの魅力に、はまる人が増えているそうです。オーケストラの中では、主に内声を支える役割をしているので、一見地味な印象がありますが、ベルリン・フィルの指揮者サイモン・ラトルによれば、「ヴィオラは影の立役者。主旋律を奏でることは少ないが、ヴィオラ抜きにオーケストラは成り立たない」というほど重要な楽器です。また、ヴィオラの音域は、ヴァイオリンより5度低く、チェロより1オクターブ高いため、人間の声に一番近く、ヴァイオリンより一回り大きい分、表現力も豊かで深みのある芳醇な響きがします。

長い間、ヴィオラは独奏楽器として認められておらず、ほとんどオーケストラや室内楽で用いられる「合奏楽器」とみなされてきました。独奏楽器として注目されはじめたのは、18世紀後半からです。そのため、ヴィオラ独奏のレパートリーは多くはなく、ヴァイオリンやチェロ、クラリネットなど、他の楽器の曲をヴィオラ用に編曲された作品もたくさんあります。今回取り上げるブルッフの「ヴィオラとオーケストラのためのロマンス」は、ヴィオラのために書かれた貴重な独奏曲です。

ブルッフといえば、有名なヴァイオリン協奏曲第1番の他、スコットランド幻想曲、コル・ニドライなど、弦楽器のための曲に人気がありますが、この曲は、パリのヴィオラ奏者モーリス・ヴューに献呈された、抒情的で美しい曲です。今回はオーケストラではなく、ピアノと一緒に演奏します。ヴィオラって良い音だなぁ・・・と感じていただけたら幸いです。


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/16

J.ブラームス / クラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114

ブラームス クラリネット三重奏曲イ短調 Op.114
I. Allegro
II. Adagio
III. Andantino grazioso
IV. Allegro

この曲を取り上げる時にまず言われることは、この作品が晩年の作であるというものであろう。作曲されたのはブラームスが逝去する6年前であり、そして、本作がOp.114であることに対し、最後につけられた番号がOp.122であることからも後期の作品ということがわかる。

本作とクラリネット五重奏ロ短調Op.115の2曲は、当時創作意欲の衰えを感じていたブラームスが、リヒャルト・ミュールフェルトの演奏に触発されて書いたといわれている。さらに、2つのクラリネットトリオOp.120を書き上げており、彼が当時クラリネットという楽器を非常に気に入っていたことが推察される。それらのいずれも、彼の晩年の枯れたとでも表現されるような心情を表現しているような名作である。

編成についてみてみると、クラリネット、チェロ、ピアノという珍しい編成である。音色から見ると、クラリネットとチェロのどちらも人間味の出やすい楽器であり、この曲の性質をある程度表しているといえよう。

さて、この曲の特徴について挙げられることに目を移すと、随所にちりばめられた拍のずれが目に入ってくる。
ブラームス特有の各声部が微妙にずれているということはもちろんだが、ブラームスの作品によく登場する、重みをもったアウフタクトの取り方がプレイヤーを迷子にさせてくるのだ。
交響曲第二番の二楽章や交響曲第三番の一楽章にも現れるこの音形は、しかし、彼の表現したい音楽を楽譜として形にするためには必要なものであったのだろう。だとすると、普通に聴いていて楽譜の拍と感じる拍がずれてしまうというのは、実は演奏手法が違っているという可能性もないだろうか。

今回は正しい拍が感じられる音楽を表現しようと試みようと思う。
果たして、今回の演奏でその表現ができているのか、是非演奏後に楽曲の譜面を見て答え合わせをしてみて頂きたいものである。


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/15

L.v.ベートーヴェン / 七重奏曲 変ホ長調 Op.20

七重奏曲はベートーヴェン30歳の頃に作曲されています。同時期の作品に交響曲第1番がありますが、同じような明るく若々しい曲調です。
とはいえ、編成はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにコントラバスが入り、管楽器はクラリネット、ファゴット、ホルンというやや中低音寄りなメンバーなので、アンサンブルに重みを感じる箇所も多いです。

この曲はヴァイオリンの難易度が他の楽器に比較するととにかく高いと言われます。アマチュアでもヴァイオリンの難易度のために演奏される機会は多くありません。
ヴァイオリンはどの楽章でもアンサンブルの中心となっていますが、他の楽器も随所随所で旋律を奏でていたり、難しそうな箇所もありますので、他の楽器の活躍するところを探しながら聴いてみるのも面白いかもしれません。

第1楽章は全員ユニゾンの序奏からヴァイオリンが奏でるテーマをアレグロで展開させていきます。
第2楽章はクラリネットがロマンス第2番を思わせるような甘いメロディを提示し、ヴァイオリンとの絡みが聴きどころです。
第3楽章は軽快なメヌエットです。トリオ部分のクラリネット・ホルンの掛け合いに注目です。
第4楽章はヴァイオリンの奏でる主題から5つの変奏が演奏されます。それぞれの変奏で主役となる楽器が入れ替わっていきます。
第5楽章はホルンから始まるスケルツォで、後期作品が感じられるような曲調です。トリオはチェロの叙情的なメロディで雰囲気がガラッと変わります。
第6楽章は1楽章と同じく全員のユニゾンで序奏が始まり、ヴァイオリンから軽快なメロディが始まります。第5楽章がリズムを変えて再現された後の展開部の終わりではヴァイオリンのカデンツァがあります。再現部の後、明るく華やかに曲は終わります。


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/13

野平一郎 / シャコンヌ 4つのヴィオラのための

バッハの「シャコンヌ」といえば、無伴奏ヴァイオリンの名曲中の名曲ですが、今回演奏するヴィオラ四重奏版は、「ヴィオラスペース2000」の委嘱により野平一郎氏が編曲、現在ではヴィオラ・アンサンブルの定番曲となっています。

「シャコンヌ」とは、新大陸からスペインに伝わり、17~18世紀に愛好された、ゆるやかな3拍子の舞曲です。もともとは、決まった低音の上に演奏者などが自由に装飾を加える曲として、ギター伴奏と歌を伴って官能的に踊られていたようですが、バッハの時代には形式だけが残り、低音を主題とした変奏曲として作曲されるようになりました。

バッハが35歳の時、『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 二短調』の終楽章として作曲された「シャコンヌ」は、8小節(4小節とも)でテーマが示された後、様々な変奏が30回繰り返され、最後にまたテーマが現れます。ヴァイオリンという楽器の可能性を最大限に引き出し、多くの技巧をちりばめながらも、同時に深い精神性、崇高さをも兼ね備えた壮大な音の建築物のような作品です。

この曲は、ブラームスをはじめ、後の多くの作曲家を刺激し、ピアノ版からオーケストラ版まで、様々な楽器のために編曲され、広くレパートリーとなっています。ヴィオラで演奏する「シャコンヌ」は、ヴァイオリンより5度低い分、しっとりとした深みのある音色を味わっていただけるのではないかと思います。


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/02

F.シューベルト / 交響曲第5番 変ロ長調 D.485

「魔王」「冬の旅」などの歌曲で知られるシューベルトは、交響曲の分野でも作品を残しています。
中でも有名なのが通常4楽章で作曲されるところが2楽章までが残されている「未完成交響曲」と、ロベルト・シューマンが「天国的な長さ」と評した「ザ・グレート」でしょう。

この第5番はその双璧と言える大曲ではなく小さな編成で作曲され、クラリネットやトランペット、トロンボーン、ティンパニを欠くためモーツァルトのような雰囲気を持っています。中でも第3楽章は調性や構成がモーツァルトの第40番のそれとの類似性がよく言及されます。
また同時期に作曲された第4番は「悲劇的」の標題とハ短調の属性を持ち、ベートーヴェン的な交響曲の王道を目指したのとは対の関係にあるとも言えます。
そしてメロディーメーカーであるシューベルト、古典的ながらも「歌」に満ち情緒感あふれる曲になっているところがこの曲の魅力でしょう。

交響曲第4番、第5番が作曲されたのは1816年、シューベルトが19歳の時。
この時期に教職を辞し音楽活動に専念するシューベルトはその後10年に渡り数々の作品を残し、そしてわずか31歳でこの世を去ります。
19歳の作品を演奏しながら、もっと多くの作品を残して欲しかった、そんな思いに駆られる1曲です。

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室内楽演奏会vol.8

2017/03/18

L.v.B.室内管弦楽団 室内楽演奏会vol.8

2017年8月5日(土) 五反田文化センター 音楽ホール
12:30 開場 13:00 開演
入場無料
 
曲目:
 野平一郎 / シャコンヌ 4つのヴィオラのための
 L.v.ベートーヴェン / 七重奏曲 変ホ長調 Op.20 田中カレン / Silent Ocean(for Trumpet and Piano)
 M.ブルッフ / ロマンス Op.85
 J.ブラームス / クラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114
 F.シューベルト / ピアノ三重奏曲 変ホ長調 《ノットゥルノ》 D. 897
 F.シューベルト / 交響曲第5番 変ロ長調 D.485

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バッハの名曲「シャコンヌ」のビオラ四重奏版、管・弦楽のアンサンブル、そして合奏まで、今回もお楽しみいただけるプログラムです。
ぜひご来場ください!

会場アクセス:
 JR山手線、都営地下鉄浅草線、東急池上線「五反田駅」より徒歩約13分
 東急池上線「大崎広小路駅」より徒歩約10分
 東急目黒線「不動前駅」より徒歩約10分

 

2017/03/12

F.メンデルスゾーン-B/序曲《美しいメルジーネの物語》 Op.32

メルジーネ、あるいはメリュジーヌとはフランスを起源としドイツにも広まった蛇女の伝承で、上半身は女性、下半身は蛇、背中には翼を持っている。伝承は異類婚奇譚、つまり人間あるいは神とそれ以外との恋愛、結婚を題材としたものである(日本では「鶴女房」や「雪女」、あるいは西洋では「美女と野獣」などが該当する)。

ある貴族(もしくは騎士)がメルジーネと出会い恋に落ち、「土曜日に自分の姿を決してみないこと」を制約として結婚する。10人の子供を設けるが、ある日貴族は約束を破り土曜日にメルジーネの正体をみてしまうことで、幸せな生活は終わりを告げる。

メンデルスゾーンはベルリンでこの物語を題材としたオペラを見たのだが、いたく不満で自分で作曲することとしたらしい。
演奏会用序曲(組曲などではなく単体の作品として演奏される)と作曲されたこの「美しいメルジーネの物語」は 交響詩に近い作品と言える。
残念ながら初演は不評に終わり、現在演奏されるのは改訂版となっている。

曲は水のイメージとされる分散和音で穏やかに始まる序奏と、やがて激しく苦悩するかのような音楽へと進み、そしてメンデルスゾーンらしい美しく情熱的なメロディーとが交互に演奏され、最後は静かに終わりを告げる。

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第39回演奏会

2017/03/09

J.フランセ/オーボエと管弦楽のための《花時計》

《花時計》とは、18世紀スウェーデンの植物学の権威
リンネが「一定時刻に咲く花と閉じる花を順番に植え、その咲きようを見ることで時刻を知ることができる」と考え、200種からの花をチョイスし実際に製作したもの。
その中から7つの花を選び、オーボエ独奏と小管弦楽のための曲を作ったのがジャン・フランセ(1912-1997)です。
1959年にフィラデルフィア管の首席ob奏者ジョン・デ・ランシーの委嘱により作曲・初演された、7つの小曲が切れ目なく続く16分ほどの作品で、それぞれには時刻とそれに対応して咲く花のタイトルがついています。

オーケストラはもとよりオーボエとピアノによる室内楽でも、日本では なかなか演奏される機会は少ない隠れた逸品ですが、ソロはもとより(フランセの管楽器の扱いのご多聞に漏れず)オケが難しい、更にそれをピアノ伴奏として編まれた譜面がこれまた難しい…しかしランシーとプレヴィンによる録音は名盤として知られ、LP時代のオールドファンも多いようです。

軽快さと機知、生気の溢れる作風のフランセの、ころころと表情の変わる粋なパリの一日。花々と共に、ご一緒に時間を追ってお過ごし頂けたら幸いです。
J.フランセ/オーボエと管弦楽のための《花時計》

第1曲 「午前3時:毒イチゴ」
第2曲 「午前5時:青いカタナンセ(ルリニガナ)」
第3曲 「午前10時:大輪のアザミ」
第4曲 「正午:アラバーのジャスミン」
第5曲 「午後5時:ベラドンナ(セイヨウハシリドコロ)」
第6曲 「午後7時:嘆きのゼラニウム」
第7曲 「午後9時:夜咲くムシトリナデシコ」

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第39回演奏会

2017/02/26

L.v.ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調Op.55《英雄》

ベートーヴェンが難聴であった事はよく知られているが、既に交響曲第3番の作曲にとりかかる5年ほど前(1798年ごろ)から兆候を自覚していた。1802年、ウィーン郊外のハイリゲンシュタットに引きこもった彼は、音楽家にとって致命的ともいえる耳の病気に苦悩し、弟2人に宛てたいわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」を書く。

自殺さえも考えた彼であったが、危機を克服し、音楽家としての使命に目覚める。こうした劇的な構図が交響曲第3番「英雄」の根底にあると考えられる。

1803年、通称「エロイカハウス」と呼ばれるオーバデーブリングの借家でスケッチを書き、1804年中には完成をみる。長大な楽章、葬送行進曲やスケルツォといった、これまでの交響曲の常識を覆すほどの革新性をもった交響曲となった。

ナポレオンが帝位についたと聞き、「奴もまた俗物であったか!」と激怒し、表紙を破り捨てたという逸話もあるが、現存する自筆譜では「ナポレオン・ボナパルト」の題名が掻き消され「シンフォニア・エロイカ」に改められ、「ひとりの偉大な人間の思い出を記念して」と付記されている。

第1楽章 Allegro con brio
全合奏により2回和音が鳴ったのち、チェロによる主題が奏でられる。後に全合奏で演奏され、オーボエ・フルート・1stヴァイオリンの順に経過部を奏でる。長大な展開部を経たのち、2つ目の展開部ともいえるこれまた長大なコーダで力強く収束する。

第2楽章 Marcia funebre:Adagio assai
葬送行進曲の主題が1stヴァイオリンにより奏でられ、オーボエに受け継がれ簡単な経過部を経る。ハ長調に転調し木管により明るい響きが歌いだされる。壮大な頂点を築いたのち、再び葬送行進曲に戻り、静かな中に終わりを迎える。

第3楽章 Scherzo:Allegro vivace
弦楽器によりリズムが刻まれたのち、オーボエにより主題が提示される。中間部はホルンによる緊張感のある三重奏が奏でられる。

第4楽章 Finale:Allegro molto
主題と10の変奏をもつ。主題は自身が作曲したバレエ音楽「プロメテウスの創造物」の終曲から転用している。途中にトルコ行進曲のような第5変奏を挟む。徐々に厳かな雰囲気になり、最後は英雄の凱旋を想わせる圧倒的なコーダで締めくくる。

この曲の演奏会
第39回演奏会 
第45回演奏会

表紙の写真はベーレンライター社のスコアの中表紙。

Sinfonia eroica, composta per festeggiare il sovvenire d'un grand'uomo
英雄交響曲、ある偉大なる人の思い出に捧ぐために作曲され
e dedicata A Sua Altezza Serenissima il Principe di Lobkowitz da Luigi van Beethoven
そしてベートーヴェンよりロプコヴィツ公殿下に献呈された

2017/01/30

L.v.ベートーヴェン / 弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 「ラズモフスキー第3番」 Op.59-3

ウィーンに外交官として駐在していたラズモフスキー伯爵は芸術のパトロンとしても知られ、自身もアマチュアのバイオリン奏者であったと伝えられている。そのラズモフスキーの依頼で作曲されたのがベートーヴェン中期の作品である、3曲の弦楽四重奏曲でラズモフスキー四重奏曲やラズモフスキー・セットなどと呼ばれている。

1曲目と2曲目にはラズモフスキーの故郷ロシア(正確にはウクライナ)の主題が用いられている。第7番では4楽章、第8番では3楽章、特に第8番で用いられた旋律はのちにロシアの作曲家達に逆輸入されている 。
ラズモフスキーセットの集大成である第9番は最も充実した作品であり・・・そしてそのためか当時のウィーンの聴衆には受け入れられなかったとも伝えられているが、曲の構成、充実度はこの翌年に作曲された交響曲第5番・第6番を期待させる。
ちなみに交響曲第5番・第6番が献呈されたのはラズモフスキーの友人で同じくベートーヴェンのパトロンであるロプコヴィッツ伯爵。前回演奏した弦楽四重奏第4番も献呈されている。


第1楽章は短調の暗く物憂げな序奏に始まり、しかしすぐハ長調の明るい曲調へと転じる。この第1主題がその後の楽章でも用いられるが、第1バイオリンとその他の伴奏パートではなく、各パートに均等・交互に出番がまわってくるのが特徴と言える。

第2楽章はチェロのピチカートを伴奏に、憂鬱なメロディーが淡々と歌われる。

そして古典に回帰するような第3楽章(これはベートーヴェンが好んで使う)のコーダは終楽章への橋渡しを担い、アタッカ(楽章間を空けずに続けて演奏する、これまたベートーヴェンの好物)で終楽章へと突入する。
終楽章はビオラから始まるフーガ風の楽章で、ここでも各パートが順に主役を担っていく。全休止からの再現部は歓喜に満ちたフィナーレまでエネルギッシュに突き進んでいく。

作曲され200年が経過した今でも決して古さを感じず、新鮮味の溢れるこの曲はベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも人気のある作品の一つでしょう。

・この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7

2017/01/29

A.オネゲル / 「2つの楽器とピアノのための小組曲」

アルテュール・オネゲル(1892-1955)は、スイス生まれの近代フランスの作曲家で、プーランクやミヨーと同じ、フランス6人組のメンバーです。

オラトリオから映画音楽まで作曲は多岐にわたり、また多くの管楽器作品も残しました。
この作品は、彼が42歳の時に、彼の妹夫婦の子供たちのために作曲されました。任意の2つの楽器にピアノを組み合わせた編成になっており、いずれも簡潔な3つの楽章で構成されています。

第1楽章:ピアノと1本の楽器により、ニ短調で日本の陰旋法を思わせる旋律が奏でられます。
第2楽章:ピアノはお休みし、2本の楽器により、へ長調の素朴な旋律が8分の6拍子で奏でられます。
第3楽章:全員により、変拍子で軽快で活発な舞踏音楽が奏でられます。短い中間部にはポリリズム(全パートが異なる拍子で同時に演奏する)書法が用いられ、スパイスを添えています。

この曲の譜面は「第1パート」「第2パート」「アルトパート(1オクターヴ下表記)」で書かれていますが、今回は、第1:フルート、アルト:イングリッシュホルンの編成で演奏致します。

この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7

J.M.ダマーズ / フルート・オーボエ・ピアノのための三重奏曲 より

ジャン=ミシェル・ダマーズ(1928-2013)は、フランスの作曲家・ピアニストで、幼少時から作曲を始め、13歳でパリ音楽院に入学し、後に副学長もつとめました。
彼の作品には器楽を用いた室内楽曲が多く、当時の主流だった前衛音楽に反し、新古典主義音楽に基づく優美な旋律を特徴とする作風でした。そのため、当時はなかなか受け入れてもらえませんでしたが、近年再評価が高まり、演奏される機会も増えています。この作品は、彼が41歳の時に作曲されました。

第1楽章では、冒頭、不協和音しかも反進行で骨太な旋律が奏でられ、聴く人に強い衝撃や軋みの印象を与えます。ところが主部では一転し、優美な旋律が、2つの楽器の軽快な追いかけっこで奏でられます。(ダマーズと日本との繋がりは調べた限りありませんが、誰もが一度はTVで聞いた、あの旋律です)

第2楽章は、親しみ易い行進曲調。でも中間部では8分の6拍子で短調の旋律が現れたり、2分の2拍子で長調の旋律が現れたり、概ね同じ速さの2拍子でありながら、様々な場面が展開し、遊び心たっぷりの楽曲です。

この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7

M.ラヴェル / ハバネラ形式の小品

キューバの首都、ハバナ。
ハバネラは「ハバナ風の」と言うわけですが、たゆたうような特徴的なリズムを持つキューバの民俗舞曲およびその様式で、1791年のハイチ革命時にキューバに流入したフランスのコントルダンスに源流があります。そこから発展したハバネラのリズムは船乗りによってスペインに輸入され、19世紀末までにはアメリカ、イギリスなど世界的に人気の舞曲となっています。後にフラメンコと混ざり合ってアルゼンチンに上陸し、タンゴのルーツとなりました。

ハバネラが「スペイン舞曲」として根付く中、クラシックではフランスの作曲家に好んで用いられ、有名どころはビゼーの《カルメン》の中の独唱曲「ハバネラ」(恋は野の鳥)や、サン=サーンスのヴァイオリン曲《ハバネラ》作品83。そして、このラヴェルの「ハバネラ形式の小品」も、その一つとしてフルート、オーボエ、ヴァイオリン等の独奏レパートリーとして親しまれています。今回はオーボエと弦楽四重奏という組み合わせとなります。
1907年に作曲された時点では声楽曲で、レッスン用エチュードでした。(ヴォカリーズ…つまり歌詞が無く母音で歌う作品)またラヴェルは 「ハバネラ」を他にも《スペイン狂詩曲》の第3曲にも用いています。スペインにほど近いバスク地方で生まれ、母親の歌うバスク地方の子守唄を聴いて育ったラヴェルは、スペイン音楽に深い愛着をもち、彼の作品中には、度々その影響が色濃く見受けられます。

ラヴェルは友人からディナーに招待されると、普通は花やワインを用意するところをチーズを専門店から届けさせたと言います。
第7回目となる当団の室内楽演奏会、オードブルに ラヴェルからの贈り物をどうぞ。

この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7

2017/01/14

E.グリーグ / 組曲『ホルベアの時代から』 Op.40

ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(現地語では「グリッグ」になるようだ)は、19世紀後半に活躍した国民楽派の音楽家として知られている。
交響曲は習作のみが残されているだけだが、オーケストラではピアノ協奏曲や「ペール・ギュント」がよく演奏されているだろう。
「ペール・ギュント」があまりに有名であるためグリーグの名前を聞いたことがある、という人は多いのだろうが一般的なレパートリーはそれほど多くないかもしれない。

そんなグリーグの室内楽における代表作がこの「ホルベアの時代」、あるいは「ホルベルク組曲」。もともとはピアノ曲として作曲されたが、弦楽合奏版も人気で、大小様々な編成で演奏されている。
古典様式に則り作曲され、前奏曲・サラバンド・カヴォットとミュゼット・アリア・リゴードンの5曲からなる。ピアノ版はどちらかというと軽やかな組曲、例えばクープランなどの古い時代のイメージがあるが、大編成の弦楽合奏では交響的な作品にもなる自由度の高い作品だろう。

曲は有名なのに「ホルベア」がなんだか知られていないのであらためて調べてみた。
ホルベアとは「デンマーク文学の父」とも「北欧のモリエール」とも呼ばれる文学者ルズヴィ・ホルベア(1684年 - 1754年)のことである。ホルベアはグリーグと同じノルウェーのベルゲンに生まれ、当時ノルウェーがデンマーク統治下にあったことから、デンマーク王フレゼリク5世の元、主にコペンハーゲンで活躍した。(出展:Wikipedia)
あまり馴染みのない人物だが、文学者であり哲学家、歴史家となかなか万能な才人であったようだ。生誕200年の式典のために作曲された「ホルベアの時代から」、小ネタとしては暴れん坊将軍こと8代将軍吉宗と同い年であった。

現在のノルウェーにおいてホルベアがどれぐらい有名なのかは分からないが、この作品はピアノあるいは弦楽合奏の重要なレパートリーであることは間違いない。


この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7

2017/01/08

R.シューマン/ ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44

オーケストラのレパートリーでもおなじみのロベルト・シューマンは元々はピアニストを志望していました。
母ヨハンナは音楽家ではないもののピアノを弾いていましたが、日本でいう中学校でピアノを習い始めたロベルトはやがてその才能を開花させ、校内演奏会での演奏や作曲を始めたりしています。

そのまま音楽への道を歩むことはなく大学では法学を学ぶことになります。
これは母ヨハンナの意向が強かったようだが音楽への情熱が消え去ることはなく、2年後1830年、20歳の時に音楽への道を改めて歩むのでした。
師であるヴィークの娘であるクララと恋仲になりますが、ヴィークの反対で5年にわたる争いが続き、1840年、最後は法廷での決着で結婚が認められることになります。

結婚後ロベルトはベートーヴェンの室内楽曲を研究し、その成果の一つが1842-43年にわたる「室内楽の年」に作曲されたピアノ五重奏曲で、初演ではクララがピアノを演奏しています。
現在でもピアノと弦楽器の室内楽曲の代表的なレパートリーであり、特にピアノ五重奏ではブラームスと並ぶ人気のある作品です。

brillante=華やかな、輝かしく、と指示された第1楽章は力強い主題とシューマンらしい歌に満ちた明るい楽章。
第2楽章は葬送行進曲のような深く沈む音楽、やや複雑なトリオを経て、最後の4楽章は自由に歌い続け、最後はフーガの形式をとるコーダで華やかに終わります。

シューマンの作品らしく、明るい時も暗い時も「歌」に満ちた作品で、何度演奏しても、聴いても楽しめる曲です。


この曲の演奏会
室内楽演奏会vol.7